一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • 痔の話
  • 投稿者:神代病院 院長 神代 弘道

痔には3つの種類があります
1. 痔核(いぼ痔)
2. 痔ろう(あな痔)
3. 裂肛(切れ痔)

  痔で一番多いのは痔核です。男性女性とも過半数を占めています。次に男性では痔ろうが多く、ついで裂肛ですが、女性では裂肛、痔ろうの順です。

 

肛門のしくみと働き
痔を十分に理解する為には、肛門はどういう構造になっているのか、どういう働きがあるのか、を知ることが大切です。 肛門は胎生期(お母さんのお腹の中にいるとき)2ヶ月ころ、上から下がってきた腸としたから持ち上がった皮膚とがつながって肛門ができ上がります。 このため肛門は腸と皮膚の性質を持っているわけです。
直腸の内側は粘膜で自律神経が支配しています。 肛門管のほうは皮膚ですので脊髄神経が支配しています。従って直腸と肛門の境い目である歯状線(歯を並べたようにしているためこのように呼ばれている)を境として直腸には痛覚がありません。これに対して肛門側には痛覚があります。
だから内痔核は出血しますが痛くはありません。これは歯状線より上にできるからです。また外痔核は出血はほとんどなく、痛みが主です。若い女性によくみられる痛みの強い裂肛(切れ痔)は肛門管の上皮が裂けてできます。 直腸が切れても痛みは感じません。直腸癌は痛くありませんが、肛門癌は痛みがあります。
このように痛みがあるかないかによって歯状線より上の直腸に病気があるのか、下の肛門に病気があるのかがわかります。

直腸、肛門には血管が網の目のようにたくさん集まっています。とくに細い静脈は静脈叢をなしていて、小動脈と連絡しています。歯状線直上部分ではとくに良く発達しており、この部分を上痔静脈叢といい(図 1)、これがうっ血して塊を作ったものが内痔核です。 排便の際この静脈壁が切れて赤い血が流れるように出ます。しかし痛みは感じないのが普通です。
一方、肛門の出口の部分にも静脈叢はありますが、小範囲です。この部分には血管内に血液が凝固して血栓ができます。これは出血よりも痛みが主な症状で、お尻のところに急に小さな豆粒大の膨らみができて痛みが出ます。これが外痔核の特徴です。  内痔核からの出血は鮮血で、これは動静脈が連絡しているからです。排便時の出血が走るように出るのは、まずここからです。 血液の色がやや暗赤色の場合には、直腸あるいはさらに奥の方に病気があります、消化管のずっと上の方になれば、血液が黒ずんできます。

 

排便のしくみ
肛門の重要な仕事は、排便をスムーズに行い、健全な日常生活を維持することです。排便はどのようなしくみで行われるのでしょうか?

食物が胃に入ると大腸の動きが活発になり、S状結腸にたまっている腸内容が直腸に送られます。そうすると直腸内圧が高まって直腸壁が伸展して便意を感じるのです。 便意が感じられると脊髄反射によって直腸が収縮して、内括約筋が緩んで便が排出されるのです。
このように便意の起こるきっかけは「胃結腸反射」で、これをうまく利用すれば毎日気持ちよい排便が行われるのです。ところが、朝出勤前に時間がなくてトイレに行けず、便意をがまんすると、出なくなってしまいます。便意が起こっても排便されないと、便意は消え、つぎの便が直腸に入るまで再び便意が起こらなくなります。あるいは、朝寝をして時間がなく朝食をとりませんと、胃結腸反射がおこりませんので、排便が行われません。不規則な日常生活や食生活が排便習慣を狂わせてしまうのです。

このことが長く続きますと、便秘を引き起こすことになり、これはやがては力んで排便することになって、痔核(いぼ痔)を発生し、硬い便の排泄によって裂肛(切れ痔)ができることになるのです。

 

どんな症状があるか?

外痔核
肛門の外側にある静脈叢のうっ血によってできるのが外痔核です。これは肛門に、急にえんどう豆ぐらいの丸いしこりができて、硬く、強い痛みがあります。 ゴルフをした後とか、あるいは力んで排便をした後とか、立ちどうしでいたあととか、重たいものを運んだ後などにも起こります。 出血は普通みられず、痛みが主です。

 

内痔核
排便時に真っ赤な血が走るように出たり、ポタポタたれたり、わずかに紙についたりします。ふつう痛くありません。痔核の塊は悪化すると、排便時に肛門外に脱出するようになります。高齢者で慢性のものは、道を歩いたときにも脱出するようになり、いつも出たままとなります。このようなものは痔の表面の上皮は厚くなっているので、出血はほとんどありません。

 

痔ろう
痔ろうというのは、直腸と肛門の境界部にある歯状線にある肛門小窩から便が入り込んで肛門腺の部分に炎症をおこし、化膿して膿が広がり,ついに肛門周囲の皮膚に口が開いて,膿が出て,いつまでも治らない管がのこる。これが痔ろうです。

 

 

切れ痔
これは歯状線と肛門縁とのあいだの肛門上皮が硬い便で切れたものです。ふつう肛門の後方にできますが,前方にできることもあります。これはそこがいちばん抵抗が弱くなっているからです。切れ痔ができると,排便のときに肛門が痛みます。硬い便がいきなりでますと、薄い上皮に傷がつきます。その痛みの刺激で肛門の内括約筋が痙攣を起こし、これがひじょうに痛みを与えます。 排便のあと5ないし10分、ときにはもっと長い時間激しい痛みを感じるのは,この内括約筋の痙攣が続いているからです。この痙攣が治まりますと,痛みも治まります。
しかし、次の排便のときに、まだ上皮ができてない切れ痔の部分が、また刺激をうけることになります。そうすると前と同じ肛門痛がおこるわけで,この痛みがつらい為,トイレに行くのが恐ろしくなり、排便に行くのをおさえるようになります。すると直腸にたまった大便は水分が吸収されて硬い便となります。するとその硬い便が出るときには,もっと激しい痛みを感じることになるわけです。
このようなことを繰り返しますと,切れた部分に感染を起こして治りにくく、深くえぐれて潰瘍状になってきます。長い間には肛門も狭くなってきます。肛門が狭くなれば便もでにくくなって,便秘がますますひどくなるわけです。

 

最後に痔と間違えやすい病気に直腸癌があります。 肛門から出血するものには、いろいろありますが、いちばん恐いものに直腸癌があります。直腸癌の場合、痔とちがう点は真っ赤な血が走るように出たり、ポタポタとたれたりしません。それよりも便意が多くなり、ふだん1日1回だった排便が、1日に5回も6回もトイレに行きたくなります。そして便が出たり出なかったりですが、少量の血液がいつも出ていて、トイレットペーパーに少し汚れた赤い血がつきます。 排便のたびに血が出ます。このような症状があったら早く検査をうけることです。

これを書くにあたり、私の恩師、隅越幸男先生の著書『手術する痔、しなくてよい痔』(講談社)を参考にさせていただきました。

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