- 放射能と病気
- 投稿者:聖和記念病院 院長 川平 幸三郎
1)はじめに
暮らし良い環境を提供してくれる地球で地殻変動はすばらしい自然と景観、温泉などを与えてくれました。3.11地殻変動は牙を向き、地震と大津波となって襲いかかりました。地震予知は未だ困難であり、寝耳に水の突然の災難となりました。災難に会われた方にご冥福をお祈りすると共にこころからお見舞い申し上げます。以下、放射能能と病気について述べたいと思います。
2)放射能事故と病気
福島第一原子力発電所はミクロの原子の分裂は甚大なエネルギーを持つが、電気に変換され、われわれはその恩恵に浴してきました。原子力発電所の地震と津波によるトラブルは単に停電というだけでなく、安心、安全な市民生活が突然危険でまた不安な生活に一変しました。
放射能の人体への影響に関しては、閾値仮説と直線仮説があり、閾値仮説の立場をとる人が公には多い。閾値仮説からは、放射能は200mSvを越すあたりから個人に影響を与えるといわれます。一時的に白血球が減少するが、回復することが多い。それ以上の強度では死に至る場合もあります。
慢性に被曝すると、大体10年以内に白血病や子供達の甲状腺がんが発生し、それ以後はあらゆる臓器のがんの発生頻度が上昇すると考えられています。
一般に日本人は約30%の確率でがんに罹るそうですが、今回の原子炉事故ではその確率が0.5%上がり、30.5%の確率になるそうです。
他方、直線仮説からは200mSvに関係なく、放射能被曝はその量は少なくても好ましくない影響を与えると考えます。
少ない量の一定の被曝または被爆を受けても全てががんになる訳でないことも事実であり、DNAなど遺伝的個性によるものと思われています。
今回の事故で皆が最も心配したのは、燃料棒が核連鎖反応を起こして、コントロール出来ない状態になるかどうかでしたが、マスコミはこの事を明快に伝えていませんでした。識者の中にはこれを評して、マスコミはこの期におよんでもまだ視聴率をあげるため、わざと明快に述べないのではないかとさえ穿って言っています。
真実は発電に用いる燃料棒のウラン235は濃縮度が5%以下といわれ、低くても70%ないと核連鎖反応は起きないので、1本の燃料棒あたり45分程度で反応は終了するそうです。しかし、物理的に不安定な核種が生成され、それが更に安定な核種へ落ち着くまでは崩壊熱を出し続けるから、冷却は必須です。100度以下の冷温停止状態になっても、勿論冷却の必要性は続きます。燃料のペレットを入れたジルコニウムの容器は2200-2800度に耐えると言いますが、それ以下で全く損傷しないかと言えばそうでもない。すると放射性の核種が外界に出て、環境を汚染し続けることになります。
原子炉の産物である人工の放射性核種にはセシウム137、ヨード131、キセノン133、クリプトン88などがあり環境を汚染し、それぞれ有害です。中でもヨード131の人体への取り込みが知られています。
甲状腺に取り込まれたヨードは甲状腺ホルモンであるチロキシン(T4)、トリヨードサイロニン(T3)として合成されます。T4はヨード4個、T3はヨード3個を1分子中に含んでいます。放射性ヨード131は口から、または呼吸器から血中にはいり、これらホルモンのヨードの一部に組み込まれます。
ヨード131で汚染された水は半減期8日で減衰するので、32日では1/16になります。二ヶ月後では1/256になることで、腐らない様に煮沸しながら保存すれば、飲んでも影響は少なくなります。
甲状腺機能検査がアイソトープ検査にあります。ヨード131カプセルを服用し、甲状腺への移行程度から機能を知る方法です。このヨード摂取試験の際は昆布やワカメなどを摂取すると、ヨードの摂取率が実際よりも低下するので検査前には差し控えることが必要です。4cm角の羅臼昆布を毎日摂取すれば、多少、消化吸収に差はあるものの、放射能事故のヨード131は甲状腺には取り込まれにくくなると考えられます。
ただし原子炉事故以降に現地で収穫された昆布、ワカメは放射性ヨードが取り込まれているので、不都合であるが、前述の水と同じく保管して置き、時日が立てば、減衰するので問題なくなります。
被曝後の甲状腺がんの腫瘤の有無には超音波検査が用いられ、エコー下に吸引生検を行って細胞を調べます。髄様癌ではカルシトニンやCEAがマーカーになります。
被曝線量と健康障害は上図のようです。また被爆からの時間変化は下図の様であり、最初の10年は白血病が多く発症し、次第にその他の部位のがんの発生が多くなります。
3)おわりに
3.11の東日本大震災で生じた福島第一原子炉事故に関連して主に甲状腺がんについてお話しました。
平成23年5月