一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • 「角膜内皮細胞」を知っていますか?
  • 投稿者:広瀬眼科医院 廣瀬 晶一

 長期間コンタクトレンズを使用している方や眼科専門医による定期検査のないコンタクトレンズ購入(ドラックストアや通販等)、コンタクトレンズの不適切な使用に心当たりのある方に是非知ってもらいたいことです。

角膜内皮細胞の働き
 角膜(目の黒目の部分)は、空気に接している上皮と内側の一層の内皮からできています。角膜の上皮(表面)は、目にゴミが入ったり、目を強く擦った時などに傷つきます。そのときに上皮は神経があるので、痛みを感じます。しかし、傷ついても数日あれば再生する能力があります。一方、角膜内皮は上皮に守られているので、通常傷つくことはありません。上皮と違う点は、神経がないので痛みを感じないこと、そして傷つきにくいので再生能力がない点です。この内皮細胞は、人が生まれてから死ぬまで、数が増えることはありません。年齢とともに少しずつ減少していきます。眼に負担を与えると、細胞の減少はより多くなります。
角膜の大切な機能は、透明で光を通すということです。その角膜の透明性を維持しているのは、痛覚があり再生能力がある角膜上皮ではなく、再生しない角膜内皮の方なのです。内皮細胞の役割は、眼球内部の水分が角膜に貯まりすぎるのを防ぐポンプのようなものです。ある程度角膜内皮細胞が減少しても何ら症状は出ません。ところが更に減少すると、ポンプ機能の限界を越えてしまい角膜にどんどん水分がたまってきてきます。透明だった角膜は白く濁ってしまい視力が低下します。角膜が水ぶくれ状態になり壊死を起こしてしまうと、これを水疱性角膜症といいますが、ここまできますと「ほぼ失明」状態です。
水疱性角膜症になると治癒は困難で、角膜移植しか方法がないでしょう。
 

コンタクトレンズによる角膜内皮障害
角膜内皮が障害される主な原因として、以下のようなものが考えられす。
(1) 眼内の操作を要する手術(内眼手術)や、レーザー治療
(2) 急激な眼圧の上昇(特に緑内障発作)
(3) 眼の外傷
(4) 眼内の炎症(ぶどう膜炎など)
(5) 先天性のもの
(6) コンタクトレンズによる酸素不足

透明で光を通す角膜には血管がありません。血管がないということは、角膜の上皮と内皮は赤血球(血液)から酸素をもらうことができないということです。つまり、空気から直接酸素を取り込みます。
角膜の上皮は、空気に接しているので十分な酸素を摂取できます。一方内皮は、角膜上皮を通過した後の酸素を受け取ることしかできないので、基本的に酸欠になりやすいのです。コンタクトレンズは黒目(角膜上皮)に装着します。この場合の角膜内皮への酸素の供給は、コンタクトレンズ→角膜上皮→角膜内皮となり、ただでさえも酸欠になりやすい角膜内皮がさらに酸欠となります。コンタクトレンズは角膜から空気をさえぎり酸欠になりやすいため、加齢により数が減少する角膜内皮の減少をさらに加速し、角膜の老化を促進することになります。

将来の為に
それでは、内皮細胞数がどのくらいまで減少すると危険なのでしょうか?
正常な角膜(20歳代)では1平方ミリメートルに約3000個の細胞があります。内皮細胞数が1平方ミリメートルあたり1000個を下回ると正常な機能を維持できなくなり、500個を下回ると水疱性角膜症になると言われています。
加齢により角膜内皮が益々減少することや白内障手術等を安全に受けてもらうためには、角膜内皮細胞が1平方ミリメートルに2000個前後に減っておれば、コンタクトレンズ使用を中止するか、眼鏡との併用(コンタクトレンズ使用時間の短縮)を勧めます。 しかし、障害の程度や年齢によっても異なるため、眼科専門医の診察を受けて判断してください。 

平成22年10月

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