- あなたがマムシに咬まれたら
- 投稿者:石橋外科 院長 石橋 雅彦
こんにちは。これまでこのコーナーではなるべく皆さんがしばしば遭遇する怪我や病気をとりあげましたが、今回に限りおそらく皆さんが一生経験することのないであろう症例を報告します。
6月6日午前0時頃とある女性が駐車場で蛇に咬まれたと言って飛び込んで来ました。診ると左足首に咬み傷がありますが、患者さんも蛇を直接見たわけではなくとりあえず消毒と破傷風の予防注射、抗生物質で経過を看ることにしました。
翌朝腫れが左ふくらはぎの中ほどまで広がっていましたので大事をとって入院。その後の24時間でさらに腫れが広がり左太ももの半分くらいの高さまで及んでいました。さらに呼吸困難 、目のかすみ、吐き気などの症状が出現し、毒蛇(おそらくマムシ)による咬傷と判断して久留米大学の救急救命センターに搬送しました。
センターでもマムシと断定できないためさらに24時間ほど点滴で経過を観察しましたが腫れは左胸にまで広がり筋肉が溶けていることを意味する赤い尿も出現したためマムシであろうという推測に基づいて抗マムシ血清を投与されました。その直後から 脈拍も安定し翌日から徐々に腫れもひき始め1週間めに退院し当院でその後の経過を見ることになりました。典型的な症状と抗マムシ血清の効果からマムシであったことは間違いないと思われました。
私もマムシの経験はなく、少し勉強をしましたので初期治療に関して反省すべき点もあり勉強した内容をご紹介します。
日本で遭遇する可能性のある毒蛇はマムシ、ハブ、ヤマカガシの三種類で、マムシは沖縄以外の日本全国に分布し、7月~9月によくみられます。体長は50cmくらいで夜行性です。牙で咬むことで毒が注入され、2個の平行で鋭利な咬み傷が特徴です。
症状は、痛み、出血、腫れのほか 皮下出血、水ぶくれ、重症では視力障害、血圧低下、意識混濁、赤色尿が見られ、最悪の場合死亡例も少なくありません。マムシの毒は神経、血管、筋肉に毒性があり、筋肉が溶けてCPKという検査の数値が上昇します。正常は150くらいまでですが、私の経験した患者さんではそれが46000まで上昇していました。
ではもしマムシに咬まれたらどうしたらいいのでしょう。実際は毒蛇かどうかわからないことも多いと思いますが、とりあえずの応急処置は共通と考えていいでしょう。
1:傷口より中枢(心臓に近いほう)を軽く縛ります。
2:水道水でいいから傷を洗います。
3:傷から毒素を吸っても危険はありませんが、口の中に傷のある人がやってはいけません。
4:医療機関へは 走ったりせずにゆっくりとあわてずに。走ると毒が回ります。
医療機関では 局所麻酔で傷を開き 局部を洗ったうえ、時間がたっていなければ毒素をしぼりだすことができます。
私が経験したように、通常腫れは徐々に広がっていくので時間を追った観察が必要です。たとえばこの例のように足首を咬まれて、次の関節(この例では膝)まで腫れが広がらないうちにひきはじめるなら軽症と考えていいですが、関節を越えて広がり一肢全体に及ぶときは重症です。血清は副作用も強く重症例に限って使うかどうか検討されます。
以上、まずお役に立つことはないと思いますが、夜間の犬の散歩や川べりの草むらでの作業などの際はご注意ください。マムシのよく出る地域ではホタルの時期には夜は長靴を履くそうです。
ちなみに今回九死に一生を得た患者は私の家内でした。救急救命センターの先生方にこの場をお借りしてお礼を申し上げます。
平成22年8月