一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • 不整脈のお話(1) 「心房細動」について
  • 投稿者:かわち内科循環器科医院 院長 河内 祥温

 心臓の一分間の拍動数を心拍数といいます。普通の人で60から100の間、ほぼ等間隔で脈を触れるのを正常としています。もちろん安静にしてリラックスしていれば50以下のこともありますし、興奮すれば100をかなり上回ることもあります。
脈がばらばらであったり、時に触れずに跳んだ感じになったり、あるいは極端に少なかったり、多かったりするのを不整脈といいます。多くの場合臨床的には問題無い事が多いのですが、なかには治療の必要なことも稀ではありません。
基礎疾患となる心臓病のある患者さんで不整脈を認めた場合は多くは抗不整脈剤等の服用が必要になりますが、あきらかな心臓病の無いかたで不整脈のみを認めることがあり、自覚症状の有無に拘わらず治療が必要な場合もあります。
その中で日常よくみられるものに心房細動と呼ばれる不整脈があります。

心臓には左右の心房と心室の四つの部屋があります。そのうち右心房と呼ばれる部屋の一部に洞(sinus)と言う部位があり、ここで一定間隔の電気信号を発生し心臓全体の収縮をコントロールしています。
洞は、いわゆる自律神経の支配を受けており、運動時や興奮したときには脈が速くなり、安静時や気分の穏やかなときには脈拍がさがります。これを正常洞調律といいます。
原因は様々ですが、この正常な洞の調律から逸脱し心房が部分的に無秩序かつ高頻度に電気的に興奮している状態を心房細動と言います。その周期は一分間に400から1000回以上で、規則的な心房の収縮は失われ、肉眼的にはブヨブヨと細かく震えているように見えます。これが「細動」と呼ばれる所以です。
幸いなことにこの電気的興奮は心房と心室の間にある房室結節という関所でくいとめられ、心室がこの頻度で興奮することはありません。それでも時には一分間に100から200前後のバラバラな電気信号が心室レベルに達するために、心室がその刺激に応じて不規則に収縮し、動悸を感じるようになることもあります。(われわれが脈拍として感じるのは左心室が収縮し血液を大動脈におしだした時の拍動です。)


心房細動で頻脈を呈したならもちろん治療の必要がありますし、幸いにも不規則ながら通常の脈拍数に保たれていて自覚症状が無くても、(意見の分かれるところですが)やはり治療が必要です。頻脈性の心房細動は循環動態の悪化をきたしますので、脈拍のコントロールが必要です。

基礎心疾患の有無に拘わらず、もともと正常な脈拍の方に、何らかの原因で心房細動がおこった場合、除細動(細動状態を正常洞調律に戻す事)を試みます。これには除細動器で直流電流を通電する方法と、薬物療法とがあります。

 

正常な心房収縮があれば血液は鬱帯することなく心房から心室へ送り出されますが、心房細動では規則的な血流が失われて淀んだ状態になるため、時に血液が心房内で凝固し、壁在血栓を形成することがあります。
問題なのは、これが遊離し全身各所に塞栓症(肺塞栓症、脳塞栓症、腸管脈動脈閉塞症などの重篤な合併症)をおこす危険があることです。
心房細動になって長期間たつと正常な洞調律にもどるのは難しくなり、この塞栓症の予防が必要となってきます。自覚症状の無い患者さんにとっては面倒に思えるのですが、抗凝固剤の内服が必要と思われます。(ここが意見の分かれるところですが、現在の趨勢は抗凝固療法を行う方にあるようです。)

 

心房細動は弁膜症や虚血性心疾患などの基礎心疾患に由来することもあり、また特に明らかな心臓の異常がなくても出現することがあります。
臨床的に後者で注意すべきは、高齢者の甲状腺機能亢進症という内分泌疾患です。甲状腺機能亢進症では甲状腺腫脹、手指震顫、眼球突出などの比較的診断容易な所見が若年者では認められますが、高齢者では心拍の異常のみが第一の臨床所見ということが稀ではありません。放置すると非常に危険な疾患であり、若し高齢者で比較的急に脈が速くなりかつリズムが不整であったならこの疾患を疑うべきでしょう。

不整脈にかんするお話はきりがないのですが、あとはまた別の機会に。

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