- 閉塞性動脈硬化症(ASO;Arteriosclerosis Obliterans)
- 投稿者:大刀洗診療所 院長 友清 明
足のしびれや痛みを起こす病気には、血管性のものや神経性のものがあります。神経性のものでよく遭遇するものに、腰椎椎間板ヘルニアや腰椎分離・すべり症などで起こる根性坐骨神経痛や変形性脊椎症から起こる脊椎管狭窄症、頸椎症によるものがあります。糖尿病性末梢神経障害でも足のしびれや感覚鈍麻がおこります。その他ニューロパチーや多発性硬化症、脊髄腫瘍などでも起こります。
血管性のものでよく見られるのが下肢の閉塞性動脈硬化症です。字のとおり血管が動脈硬化で狭くなって詰まるために起こる病気です。コレステロールや中性脂肪が高いと起こりやすくなります。肥満で高血圧や糖尿病がある方は特に起こりやすくなります。
他にバージャー病(ビュルガー病ともいう)があり、これはまだはっきりした原因はわかっていませんが、自己免疫疾患とされ末梢動脈が炎症を起こして狭くなり血栓で詰まる病気です。喫煙する人に多く発症し、発症年齢も閉塞性動脈硬化症にくらべ若く、20歳台から発症することもあります。男女比は9対1と圧倒的に男性が多いです。なかなか治りにくく難病疾患に指定されています。
今回は下肢のASOについて説明いたします。
下肢の動脈で脈拍を手で触れる場所は上から順に大腿動脈(大腿付け根)、膝窩動脈(膝の裏)、足背動脈(足の甲)や後脛骨動脈(内踝”くるぶし”の後方)です。正常であれば全ての脈を触れますが、中には正常でも足背動脈や後脛骨動脈の脈が触れにくい方もおられます。足背動脈や後脛骨動脈の触れる場所は個人差がありますので、日頃から自分の脈の触れる場所を覚えておくとよいです。
ASOのごく初期は症状がありません。動脈硬化は数カ月~数年を経て徐々に進行していきますので、大腿動脈下部が完全閉塞する頃には体もそれに対応し、小さな血管を網目状に張り巡らせ側副血行路(バイパス)を形成し、閉塞部より上方(中枢側)と下方(末梢側)とをつなぎます。そのため安静時にはバイパスを介して下腿(膝より下)に血液が流れますので、特に症状が出ないのですが、長く歩くと細いバイパスでは血流が不十分になるために、脚が冷たくなったり、しびれたり、痛くなり、しばらく休まないと回復しません。これを間歇性跛行と言います。症状が進むほど一度に歩ける距離が短くなります。
ASOの状態を自分である程度は判断できます。軽い時期は下肢のしびれや冷感があり、こむらがえりなどもよく起こり、足背動脈や後脛骨動脈が触れにくくなります。重症になるほど上(中枢側)で狭窄や閉塞が起こります。膝窩動脈も触れにくくなり、さらに大腿動脈が触れない場合は動脈硬化が進み腹部の動脈が強く狭窄していると考えられます。間歇性跛行の距離が段々短くなり、脚は冷たくなり歩かなくてもジンジンと痛むようになり、また皮膚の感覚も鈍くなり、小さな傷ができても気づかず、終には足の指に血が通わなくなり潰瘍や壊死に陥ってしまいます。大事なことは軽い時期に速やかに医療機関で診てもらうことです。
診断は触診だけでもかなりわかりますが、血液検査で糖尿病や高脂血症のチェック、血圧、足関節収縮期血圧/上腕収縮期血圧(ABPI)、血管エコー、CTA;Computed tomographic angiography、MRA;Magnetic resonance angiographyなどで診断します。
臨床症状からみた重症度分類にはFontaine分類がよく用いられます。
Fontaine分類
Ⅰ 無症状
Ⅱa 軽度の跛行
Ⅱb 中等度の跛行
Ⅲ 虚血性安静時痛
Ⅳ 潰瘍化または壊疽
治寮方針はFontaine分類を参考にします。
FontaineⅠ、Ⅱの段階ではまず動脈硬化危険因子の管理(高血圧、高脂血症、糖尿病等)、運動療法と内服薬による薬物治療を6ヶ月間継続して行い、症状改善が見られない場合、手術適応があります。FontaineⅢ、Ⅳの場合は手術療法が第1選択となります。
A. 一般的処置
下肢を清潔に保つことが重要。深爪による感染や低温火傷などが下肢切断を要する難治性潰瘍につながることを認識すべきである。
B. 運動療法
運動療法は間歇性に対する最初の治療法である。間歇性跛行をきたす距離を繰り返し歩くことで側副血行路を発達させ跛行距離を延長させるためである。ただしこの治療法は虚血性心疾患を合併せず、安静時痛や下肢の潰瘍を認めない場合に限る。
C. 内服治寮
抗血小板剤(血栓予防)や血管拡張剤で病変の進展を予防する。
D. 点滴治療
重症虚血下肢症例において、血管拡張薬の静脈内投与は症状や潰瘍の縮小が期待でき、また間歇性跛行距離も延長可能である。しかし透析患者等の血管の石灰化が強い症例では、血管拡張剤の効果は十分でなく、むしろ抗凝固剤である抗トロンビン薬の方が有効である。
E. 手術療法
上記の保存療法を6ヶ月間継続しても治寮抵抗性の症例や、重症下肢症例では手術療法が適応となる。血管造影検査で前脛骨動脈(足背動脈)、後脛骨動脈、腓骨動脈の血流が良好で、狭窄病変が短い場合はカテーテル治寮、長い場合はバイパス手術の適応となる。近年カテーテル治療の遠隔成績の向上により、今後はカテーテル治療の適応病変の拡大が期待される。
平成21年7月