一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

丸山病院 永田 夏織

  • 水中運動のススメ
  • 投稿者:丸山病院 永田 夏織

水中運動のお話
特定健診もはじまり、メタボリックシンドローム、糖尿病、高血圧、肥満などが判明し運動を勧められる方も多いかと思います。
運動療法にはウォーキングなど陸上で気軽に始められる運動もありますが、今回は水中運動についてお話しします。

特性
人体が水から受ける影響
水圧 水中では深さが変わると、水深10cmごとに0.01気圧ずつ圧力が増えていきます。水中運動は水深100cmから130cmで実施されるので、身体は空気中よりも0.1~0.13気圧余分に圧を受けます。身体で最も影響を受けるのは胸郭です。水中運動を行っているときの胸郭は水深20~50cmの間に位置するので、空気中よりも0.02~0.05気圧分だけ吸気の際に胸郭を広げる運動が抵抗を受けます。したがって一種の努力呼吸が必要になります。水深が深くなるにつれ水圧は大きくなるので、長時間の立ち仕事などでむくんでしまった足のむくみをとるには立位で行う水中運動が最適です。

水温 水は、空気の20倍以上も熱を伝えやすい性質を持っています。水中に入っているだけでも、地上にいるより多くのエネルギーを体は放出しています。水温が24度以下の水中に入っていると、体温は急速に低下するので、水泳・水中運動は水温24度以上、できれば28度くらいの水中で行うのが望ましいです。ストレッチングやリラクゼーションなどエネルギー消費の少ない運動では水温は高めに設定し逆にアクアサイズや水泳など運動量の多いものでは、水温を低めに設定すると良いでしょう。ダイナミックな動きの多い水中運動は30度から34度が適温です。

浮力 水中運動では体の大部分が水中にある事が多いですが、その水中にある部分の容積と等しい水の重さの分だけ浮力を受けることになります。

抵抗 水中での抵抗は空気中に比べ大きいため、水の中を進もうとしても陸上のように簡単には進めません。この抵抗の大きさは速度が速くなるとほぼ速度の二乗に比例して大きくなります。同じような運動を行ってもその速度を変えることによって負荷を強くしたり弱くしたり出来ます。

水中運動の利点
○体への負担が少ない
水の中では浮力が働くので,陸上にいるときよりも体への負担が軽くなります。
ひざや腰への負担が少ない運動です。

○陸上に比べて多くのエネルギーを消費することができる。
水中では水圧や水の抵抗で歩くだけでも十分な運動を行うことができます。歩く速度をかえたり、他に動きを加えたりすることで,自分にあった運動強度で運動を行うことができます。

○心肺機能が強化できる。
水中では人間は体温が奪われやすくなるので,体温を一定に保つという体温調節機能を高めます。水中では水圧がかかることによって、呼吸の動作も大きくなります。地上で加わる筋肉の緊張がとれ、とくに下肢の血液の循環がよくなります。このため、腰痛、足の疲れ,だるさ、静脈の腫れなどの改善がみられます。

○無理なく全身運動、有酸素運動ができる。
体の水につかっている部分は水圧や水の抵抗を絶えず受けていることになり全身の筋肉を鍛えることができます。泳がずに歩いているだけでも,全身を使うことができ、運動強度が高くない分,長時間連続してできます。

○ゆっくりマイペースでできる。
 激しい動きは必要なく自分にあったスピードで,マイペースでできます。

○暑い夏でも出来る運動
水の中なら気持ちよく陸上で運動するよりもつらくありません。

水中運動の実際
準備運動(ウォーミング・アップ)
水に入る前に10~15分程度のストレッチや準備運動を行ってから始めましょう。
軽く水をかけるなどして、水温になれておきましょう。

水中運動
○水中ウォーキング
膝や腰を痛めている人もリハビリとして水中ウォーキングをすると無理なく改善することができます。水深は胸くらいが理想です。歩き方は手を大きく前後に振り,大股でかかとから足をつけるように歩きましょう。

○アクアビクス
アクアビクスとは、水中で音楽に合わせて体を動かすエアロビクスのことです。陸上に比べて受ける衝撃が少なく水の抵抗力を最大限に使うことができ、効率よく有酸素運動を行うことができます。背筋を伸ばし,なれないうちは、一つ一つの動きを小さくゆっくり行いますが、なれてきたら大きく速く(音楽に合わせるなど)行うようにします。

○水泳
泳げる方は距離よりも時間を目安に泳ぐようにしてみましょう。
最初は5~10分連続して,なれてきたらだんだん時間を長くしていって30分くらい泳ぎ続けられるようになるとよいでしょう。
連続して泳ぐことが難しい方は、持久力をつけるためにインターバル形式といって、25mまたは50m泳いで数秒間休憩して、呼吸の乱れがおさまったらまた泳ぐというように繰り返してみてください。ゆっくり泳ぐだけでも陸上で行う有酸素運動と同じくらいの効果が期待できます。全速力で泳ぐときは無酸素運動のようになってしまいますので、健康のため、減量を目的とする場合はゆっくり泳ぐようにしましょう。

整理運動(クーリング・ダウン)
リラックスしながらゆっくりと呼吸を整え、使った筋肉をほぐしていきます。10~15分程度行いましょう。

安全に運動するための注意
メディカルチェック

水泳、水中運動は健康のためによいのですが、同時に危険もはらんでいます。メディカルチェックの目的は,水中運動などの運動による事故を防ぐことです。
このため、これまで運動をしてこなかった人が、これから水泳,水中運動を始めようとするときは,事前に医師によるメディカルチェックを受けることをおすすめします。

運動を始める前に血圧、脈拍数を測定しましょう(血圧の測定できる施設が望ましい)。また、その日の体の状態が次のような場合には、運動を中止しましょう。
1.睡眠不足、疲労感,胸がしめつけられるとき、動悸を感じるときなど。
2.体温が37度以上のとき。
3.安静にしているときの心拍数が100拍/分以上のとき。
収縮期血圧が180mmHg、拡張期血圧が110mmHg以上
4.不整脈が認められるとき、あるいは心電図で異常を指摘されているとき。
5.目や耳の病気(結膜炎、中耳炎など)があるとき。
6.皮膚の病気(水虫、水イボ、アトピー性皮膚炎、湿疹など)があるとき。

注意 運動中に以下のようなことがあったら、運動を中止し、プールから上がりましょう。
胸が締め付けられるように痛い。
激しい動悸がしたり,脈が乱れる。
めまい
気分不良
いつもと違う疲れを感じるとき
関節や筋肉に痛みを感じる など

その他 運動前、中、後には水分補給を行いましょう。
一人では運動しないようにしましょう。
夢中になり無理をしないようにしましょう。
眼、耳、皮膚などの感染症を予防するためには、水から上がったらシャワーなどのきれいな水を浴び、よく洗うことが大切です。シャワー設備の整ったプールを使用しましょう。

時間帯 空腹時や食事の直後は避けた方がよいでしょう。

運動強度
運動の強度としては、最大酸素摂取量の50%程度(50%強度)が効果と安全性の面から適しています。50%強度は脂肪の燃焼率が高く、運動中の血圧の上昇も軽度で、血中乳酸の蓄積もほとんど認められず、運動を持続することができます。50%強度を超えると血中乳酸濃度は上昇し、主観的にも「きつい」とかんじるようになり、さらに筋肉や関節への負担が大きくなります。50%強度は脈拍数と主観的運動強度(ボルグ指数)を指標にします。50%強度に相当する脈拍数は、138-年齢/2で求められます。運動中の脈拍数は一定のスピードで3~5分間運動後、運動を中止し15秒間脈拍数を測り、次の式をつかって1分間の脈拍数を予測します。
運動中1分間の脈拍数=15秒間の脈拍数×4+10
(10をプラスする理由は、運動を止めた後脈拍数が減少するのでこれを補正するため)
主観的運動強度は「楽である」~「ややきつい」の程度です。

運動量と頻度
有酸素運動に反応する時間を考慮すると。20分間以上が望ましいです。一日の運動量は30分以上で、およそ200kcalのエネルギー消費量、1週180分以上を目標とします。
頻度は中止すれば効果が速やかに消失するので、運動効果を持続するためには、最低週に3回以上行います。

参考
 「健康づくりのための運動指針~エクササイズガイド2006」
2006年に厚生労働省より発表された「健康づくりのための運動指針~エクササイズガイド2006」では、運動で生活習慣病を防ぐには、1週間にどの位の運動量が必要かの目安を提示しています。

具体的には、「エクササイズ」という身体活動量の単位を設定し、1週間に23エクササイズ以上が目標になっています。

 エクササイズとは

身体活動量の「1エクササイズ」とは、どのくらいの活動量でしょうか。

身体活動とは、安静にしている状態より多くのエネルギーを消費する全ての動きをいいます。この身体活動は、「運動」と「生活活動」に分類されます。「運動」を体力の維持や向上などのために意図的に行うものと定義しています。生活活動は「運動」以外のもので、買い物や庭掃除、軽い荷物運びなどの日常生活上の活動です。これらの身体活動の強度をあらわすのが「メッツ」です。

 メッツとは

安静時(座っているとき)を1メッツとし、その何倍かで活動の強さを表します。例えば、軽いオフィスワークや読書は1.5メッツ、食事や着替えは2メッツです。

時速4kmの歩行やボーリングは3メッツですが、これは、安静時の3倍に相当する活動の強さということになります。活動の強度としては、3メッツ以下が低強度、3メッツ以上は中強度です。

3メッツ以下の低強度の身体活動は、身体への刺激が少ないため、エクササイズとして計算できるのは、3メッツ以上の活発な身体活動となります。

 エクササイズの計算方法

身体活動量を示す「エクササイズ」は、活動強度の「メッツ」に活動時間をかけて算出します。

例えば、3メッツの普通歩行の場合、1時間続ければ、3メッツ×1時間で3エクササイズで、
30分だと1.5エクササイズ、20分で1エクササイズとなります。

 4エクササイズ以上は「運動」で

生活習慣病を防ぐためには、1週間で23エクササイズ以上の身体活動が必要ですが、このうち4エクササイズ以上は「運動」でこなします。

例えば、4メッツの水中歩行は15分で1エクササイズ、60分で4エクササイズになります。

4エクササイズを「運動」でこなすことができれば、残りの19エクササイズは、生活活動で補ってもいいわけです。

普通歩行は20分で1エクササイズですから、6時間20分歩けば、19エクササイズになります。

■ 1エクササイズに必要な身体活動 【運動】(水中のもの抜粋)

※「運動必要」時間と「運動」内容
□15分(4メッツ) 水中運動、水中で柔軟体操、アクアビクス、水中体操nagata-kaori5

□10分(6メッツ) スイミング(ゆっくりしたストローク)

□9分(7メッツ) 背泳

□8分(8メッツ) クロール(ゆっくり、約45m/分)

□6分(10メッツ)平泳ぎ

□5分(11メッツ)水泳:バタフライ、クロール(速い、約70m/分)、

水中運動にはうれしい効果もたくさんあります。
ぜひチャレンジしてみましょう!

平成20年9月

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