- ぺコロスの母に会いに行く
- 投稿者:医療法人寿栄会本間病院 院長 本間 五郎
認知症とは「さまざまな原因によってもの忘れ(記憶障害)や判断力の障害などがおこり社会生活に支障をきたすこと」を言います。認知症にみられる症状を大きく2つに分けると記憶の障害や見当識の障害、判断力の障害を中心とした中核症状とさまざまな精神症状からくる行動・心理症状があります。その認知症をテーマにした映画を一つ,ご紹介したいと思います。長崎在住の漫画家・岡野雄一さんによるエッセイ漫画が映画化されたもので、それは作者自身の体験をもとに 認知症の母との日常を描き,21万部を超えるベストセラーとなりました。2012年に映画化されることとなり, 縁あって当院に協賛のお話を頂いた折,プロデューサーの方に話をうかがうと,楽しく笑える演出の中にも,監督の森﨑 東さんが85歳ということもあり,認知症当事者,そして介護者の方への配慮と尊重の重要性を,制作される側を含めて考慮しておられる事が伝わってきました。脚本の出来栄えは素晴らしく,思わず笑ったり,涙ぐんだりしながら一気に読み終えました。そして医療監修をされた日本老年精神医学会理事長である新井平伊先生のコメントも参考にさせていただき,認知症がテーマという事もあり,協賛することになりました。今まで認知症がテーマの映画は,やむを得ない事ですが,観ていてつらい気持ちになる作品が多かったと思います。この映画の母も,亡くなった夫の姿が見え会話をしたり,情緒不安定,徘徊など行動・心理症状があり,介護者はその対応に追われます。ある面、認知症の経過,病状がリアルに表現されています。しかし主人公の息子(作者)は,「死んだ父ちゃんに会えるなら,ボケるとも悪かことばかりじゃなかかもな」と言います。「現実にはそんなことは言っておれない」とさまざまな対応を要するケースがあるのは否定しません。プロデューサーも「現実の介護がこんなに楽天的とは決して思いません。辛いものであることは承知していますが,せめて映画の中だけでも笑いと感動で心が癒されれば。私どものせめてもの願いです」と述べています。その制作者の想いに監督の手腕が加わり,ユーモラスの中にも老いや認知症を否定せず,前向きな気持ちを与えエールを送る,人間賛歌の作品となっています。2013年当院が開設30周年記念地域感謝祭として主演の赤木春恵さんにお越しいただき,小郡市文化会館で試写会を行いました。千人を超える地域の方々が来られ,大変喜んでいただきました。同年11月より全国ロードショーされると予想以上(予想通り?)に評判がよく,国内で最も権威がある映画賞「キネマ旬報ベスト・テン」において日本映画第1位を獲得したのをはじめ,多くの映画祭で数々の賞を受賞しています。海外の映画祭でも上映されました。
認知症は社会問題の1つとなっています。医療従事者や介護者がこの映画を観られても何か感じるものがあると思いますし,映画としても観た後に暖かい気持ちにさせられる作品だと思います。DVD&Blu-rayの発売,レンタルも開始されております。お暇な折にでもぜひご鑑賞下さい。
平成28年5月