- 在宅での緩和ケアについて
- 投稿者:まどかファミリークリニック 院長 加藤 光樹
みなさんは在宅医療や緩和ケアにどんなイメージをもたれていますか?在宅医療については人手も検査機器も乏しい環境での診療になるので、「質が低い」というイメージをおもちかもしれません。緩和ケアについては、最終的には最期を迎えることになるケアですから、「先の望みがないケア」というイメージをもたれている方もいらっしゃるかもしれません。そのイメージは、おそらく半分は当たっていて、半分は違っています。これから、在宅医療と緩和ケアのことをもっと知っていただくために、在宅医療と緩和ケアが何を目指しているのか、病院医療との違いに触れながらお話していきたいと思います。
病院医療というのは、原則的には命をまもるのがゴールです。病院は、命をまもるために、最も効率がよい体制をしいています。医師、リハビリスタッフ、看護師、介護士、薬剤師、医事、ソーシャルワーカーなど、明確な役割分担を行い、その役割に徹することで、効率のよいケア、一人でも多くの人の命をまもるケアを提供します。効率を優先する場合、大部分の人に当てはまるようなケアの仕方を優先することになり、そこからはずれる方の個々の事情に合わせることは難しくなります。個々の事情に合わせたケアというものは、極めて効率が悪いからです。
では、在宅緩和ケアが目指すゴールというのは、どこにあるのでしょうか?緩和ケアというのは、亡くなることが前提になっている以上、「命をまもる」というだけではゴールとはなり得ません。在宅緩和ケアのゴールは、「亡くなるまでの時間を、より本人の願う通りに生きる」ことにあります。吐き気がないように、痛みがないように、きつくないように、息苦しくないように、家族と過ごせるように、家にいられるように。こうした願いを支えていくことが、在宅緩和ケアの一つのゴールだと思います。私たちは、自分たちの在宅医療のゴールを、「患者さんの在りたいを支える」という言葉で表現しています。もちろん、緩和ケアは在宅でなくともできるのですが、家で過ごしたい、家族と過ごしたい、自由に過ごしたい、といった希望をもたれている方は、事情や状況が許せば在宅でのケアを選ばれる方が少なくないように感じています。
さて、「亡くなるまでの時間を、より本人の願う通りに生きる」、そのために求められるケアというのは、どのようなケアになるのでしょうか?「本人の願い」というものは人の数だけあります。お一人お一人、医学的な状態、本人のご希望、生活の状況、ご家族の状況、一つとして同じ状況というものはありません。つまり、在宅緩和ケアでは、個別性と複雑性がとても高いケアを提供しないといけないということになります。例えば、予後2週間と言われているが、1ヶ月後の孫の運動会に行きたい、そんな希望をどうやったら叶えられるか。こうしたことを、ご本人の身体の状態、ご家族のサポート状況、多職種から得られる支援の状況などを踏まえながら、個別的に考え対応していきます。
今回は少しでも在宅医療や在宅看取りについて知っていただけたらと、在宅での緩和ケアについて書かせていただきました。この記事がみなさんにとって少しでも何かのお役にたてば幸いです。
平成28年9月