- 産業医としてのお話
- 投稿者:やなぎ医院 院長 栁 純二
我々医師会の医師は、通常の外来診療や在宅診療だけではなく、様々な保健衛生活動にも関わっています。予防接種や健康診断、学校医・園医としての活動、行政の保健事業への協力、介護保険事業関連、産業医としての活動等を含みますが、今回は産業医としてのお話を少し紹介させて頂きます。
職場において職員が心身共に健康であることは、職員(労働者というのが公的な名称です)自身にだけでなく、職場(事業所というのが公的な名称です)にとっても大変重要な事です。言うまでもなく、労働者が体調を壊せば事業所の生産性が落ち、事業所の運営に関わる一大事となります。
現在、労働安全衛生法にて、事業所は健康の保持・増進のための措置を取らなければならない、と規定されています。
そしてその内容として ①作業環境管理(作業中のリスクを把握し、管理すること。具体的には作業の測定、評価、作業環境の改善など)、②作業管理(作業の安全化や効率化が可能な方法を定め、その方法が適切に実施されているか管理・改善すること。具体的には作業時間管理、作業方法の改善など)、③健康管理(労働者の健康状態を管理し、異常を早期発見したり、回復措置を行ったりすること。具体的には健康診断、ストレスチェック、日々の活動記録など)、④その他の施策(体育活動やレクリエーション活動の実施、休憩室の確保など)が事業所に求められています。事業所はこれらの管理を行い、作業の改善や労働者の健康を保持する義務があります。
また一方で労働安全衛生法の遵守は、事業所だけでなく、労働者にとっても義務となっています。
産業医は、上記のように事業所の保健衛生事業のサポートをします。現在、職員50人以上の事業所には、産業医を選任することが義務付けられています。また職場での具体的な作業を行う担当者として、職員50人以上の事業所には衛生管理者も選任され、産業医と共に活動をします。(職員50人未満の事業所については産業医の選任義務はありませんが、健康管理等を行うのに必要な医学的知識を有する医師などに、職員の健康管理の全部または一部を行わせるように努めねばならないとされています。)
では産業医が具体的にどのようなことをするかについて説明します。
①作業環境改善関連:職場巡視や作業内容の確認により、適切な作業環境であるかを確認し、問題があれば改善を求めます。
②健康診断の実施およびその結果に基づく指導:健康診断の結果、要精密検査の判定が出た方は早急に医療機関での検査を受ける必要があります。産業医は、職場の衛生管理者とともに、精密検査を受けたかどうかのフォロウも行います。
③ストレスチェックの実施およびその結果に基づく指導:ストレスチェックで「高ストレス者」の判定を受けた方は産業医の面談を受けることが勧められています。この面談は法的な義務では無く勧奨となっておりますので、受けられない方がおられるのは大変残念なことです。面談を受けますと、産業医はその方がどのような状況であるかを診て、必要であれば心療内科などの専門医へ紹介することもあります。また複数の高ストレス者の面談を行うことで、職場としての問題点が見えてくることもあります。
④長時間労働の方には、規定に従い産業医面談を行います。マスコミの報道でもあるように、過労からのストレスに耐え切れず自殺される方が増えています。そのようなことを未然に防ぐ大事な作業となります。
⑤毎月事業所で行われる衛生委員会に出席し、関連の協議を行います。職場としての問題点があれば改善方法提案をします。
⑥必要であれば、職員向けの健康教室を行います。産業医自身が話すこともあれば、専門の講師を招いて講演してもらうこともあります。ここ数年はパワーハラスメント対策や、アンガーマネージメント等のお話の機会が増えています。
近年、職場環境、家庭環境、社会環境への適応困難、人間関係の問題などによるストレスが増え、特にうつ傾向の方が増えてきています。産業医は予め専門の研修等を受けており、身体面だけでなくメンタルの面でも対応を致します。50人以上の事業所であれば必ず産業医が配置されていますので、職場に相談し難いようなお困りのことがあれば産業医に相談されることをお勧めします。ご参考になれば幸いです。
令和2年1月