一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • 「心臓リハビリテーション」について
  • 投稿者:丸山病院 内科 平松 義博

 昨年(2019年)2月から丸山病院へ赴任いたしました。それまで11年間、久留米市宮ノ陣にあります古賀病院21に勤務していました。丸山病院豊泉会が古賀病院天神会グループに加わることになったことから赴任することになりました。私は循環器内科医(心臓病や血管病の内科医)ですが、この二十年近く「心臓リハビリテーション(以下心リハ)を専門に診療や研修を続けてきましたので、心リハについてご説明をしようと思います。まだまだ一般の方には心臓病の人にどんなリハビリテーションをするのだろうと思われていると思います。リハビリテーションというと、脳卒中の後や整形外科の手術後の機能回復訓練(平行棒を使った歩行訓練など)のイメージが強いからです。じつは、リハビリテーションという言葉は医学用語ではなく一般用語で、本来の意味は少し難しい表現ですが失われた権利の回復=《再び適した状態にする》なのです。従って訓練を継続することがリハビリテーションではなくて、訓練を通じて病気や障害を持ちながら再び元気に暮らしていく生活を取り戻していくことがリハビリテーションの本来の意味となります。メジャーリーグの大谷選手が手術をしたあと、再び二刀流の野球選手として活躍できるように、たくさんのスタッフや医療関係者とともにトレーニングを行い積極的に取り組んでいく様子はまさにリハビリテーションです。この意味からはどのような病気であっても治療の開始の時期から常にリハビリテーションを意識していくことが重要となります。治療はうまくいったけれど、寝たきりになってしまった、では本末転倒ですね。特に心臓病の場合、運動療法で身体機能を回復していくこと、病気を起こしてきた原因を考えて病気の再発や進行を抑える努力を続けていくことが、極めて大事になります。こうした取り組みが心リハなのです。

 私が医師になった40年前は心不全の患者さんの治療の基本は安静でした。しかし、安静にすることで心臓機能が回復することはありません。一見症状が安定して見えますが、安静を続けているとむしろ足の力など全身の筋肉は衰えるため、活動的な生活がますます出来無くなっていくのです。今では適切な運動療法が心不全患者さんの体力を高め、寿命も伸ばすことが明らかとなっています。具体的には心リハは医師やリハスタッフが関わる「運動療法」に加えて、病気をおこす原因となる糖尿病や高血圧などをきちんと管理が行えるように生活様式を適切に変えていくカウンセリングが重要になります。例えば栄養士さんの「食事管理」や薬剤師さんの「禁煙指導」、看護師さんが関わる「生活指導」などです。つまり心リハはこうした多職種の医療チームが協力・協同して患者さんの元気を取り戻していく取り組みなのです。

 それでは心臓病患者さんにはどのような「運動療法」が適しているのでしょうか。やみくもに運動をすることは病状を悪化させるため、以前は安静を強いるという誤った指導が行われていました。このため特に心臓病患者さんでは、心臓機能は勿論、全身の体力や筋力、また合併症の有無などの評価をきちんと行います。そして治療としての運動療法は、お薬を処方することと同じように、それぞれの患者さんに適した「運動処方」を行うことが重要となります。一番重要なのは《運動の強さ》ですが、これはそれぞれの患者さんは勿論、同じ患者さんでも病状の変化などによって変化していきます。強さの基本は有酸素運動です。また難しい表現ですが、「有酸素運動=息切れが起こらない運動の強さ」と覚えてください。例えば散歩をしているとき、息切れすることなく会話が可能な歩く速さのことです。心臓病患者さんの場合、専門の施設で運動負荷試験という検査を定期的に行って適切な運動の強度=強さを決めていくことが必要となります。《運動の継続時間》は一日30分以上確保できれば効果があがることが証明されています。強い運動強度で短時間運動することは危険性が高くなり効果は上がりにくいのです。《運動の頻度》は一週間に3回以上継続できれば、これも効果があることが証明されています。体調の良くない日、天気の悪い日などはお休みしてよいのです。またご高齢の方で筋力が低下している場合、息が上がらない運動のみでは体力の向上効果が少ないことが知られています。血圧が上がらない程度の《筋トレ》(スクワットなど)を併用するとさらに効果が増していきます。一般の方で、心臓病を予防するための運動は、《有酸素運動》を《一日30分以上》、《週3回以上》と覚えてください。筋トレは毎日では逆効果で(筋トレでは筋肉が回復する時間が必要となります)、《週2~3回以内》と覚えましょう。是非心臓病の方も心臓病を予防したい中高年の方々も楽しく運動を続けていく習慣が身につくと良いですね。運動療法についてお尋ねのある方は、お気軽に私のところまでおいでください。

 


令和2年8月

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