- 肺非結核性抗酸菌症
- 投稿者:ひやまクリニック呼吸器内科 院長 肥山 淳一郎
(1)非結核性抗酸菌とは何ですか?
結核菌と同じ抗酸菌のグループですが、結核と異なり、通常ヒトからヒトには感染しません。身の回りの環境中に常在しており、160種ぐらいの菌種があります。この中の約30種でヒトへの感染が報告されています。肺に感染することが多いのですが、肺以外に感染することもあります。肺非結核性抗酸菌症の原因としては、MAC症(マック症)がもっとも多く、80%を占めています。MACとは、Mycobacterium avium-intracellulare complexの略で、西日本にはintracellulareが多く、東日本にはaviumが多くみとめられていますが、性状がよく似ているため一括してMACと呼ばれています。この次に多いのはMycobacterium kansasii、そしてMycobacterium abscessusです。近年、日本や欧米では肺非結核性抗酸菌症の患者さんが増えていることが報告されています。理由は分かっていませんが、やせ形の中高年の女性に多いことが分かっています。
(2)どのような症状が出ますか?
無症状で検診により胸部異常陰影を指摘されて判明することもしばしばあります。
咳、痰、血痰や喀血、発熱、寝汗、全身倦怠感、体重減少などの症状がみとめられます。
(3)どのように診断しますか?
痰を出して、抗酸菌塗抹検査、培養検査を行います。培養にはしばらく時間を要し、数週間かかります。環境中の常在菌のため、1回だけ培養で抗酸菌が検出されても、たまたま環境中の菌が生えてきただけなのかもしれませんので、2回以上、同じ菌が生えてくることが診断に必要です。MAC症の場合は、PCRによる迅速診断法もあります。痰が出ない場合は血液検査で抗酸菌抗体(MAC抗体)を行います。
(4)治療法はありますか?
診断された患者さんすべてに治療が必要になるわけではありません。
軽症の場合は経過観察で対応します。胸部写真やCT検査で陰影が進行して悪化して行く場合や、発熱などの症状が続く場合には薬物治療の適応になります。
薬物治療では、通常クラリスロマイシンと抗結核薬2剤を併せた3剤の治療が必要です。
抗結核薬の中では、リファンピシン、エサンブトールを用いますが、注射薬であるストレプトマイシン、アミカシンを用いることもあります。お薬の副作用で胃腸障害やアレルギー、発熱、肝障害、視神経炎などをみとめることもありますので、注意が必要です。MAC症の場合は、1年半以上、およそ2~3年間の治療が必要になることが多いですが、薬物治療では完全に治すことは難しく、治療後に再燃することもあります。
空洞性病変の場合は、外科的切除が行われることもあります。
(5)日常生活の注意点はありますか?
非結核性抗酸菌は土や水の中にいる環境中の常在菌ですので、農業や園芸など庭仕事を行うときは土ぼこりを浴びないように注意してください。シャワーヘッドに残った水を浴びたり、残り湯の焚き直しでお風呂につかることは避けるなどの配慮をしてください。
病気が進行していくかどうかは、患者さんの免疫力、体力しだいですので、日頃から、睡眠を十分に確保して、バランスよく食事を食べて、適度に運動を行い、朝起きたときに、疲れが残っていないような生活を心がけてください。
令和3年4月