- 「うつ」について
- 投稿者:くつろぎこころのクリニック 院長 脇元 隆次
これまで外来を受診された多くの方が「うつ」に悩んでいました。
ここでは「うつ」について私なりの考え方や、実際の診察の流れについて書いてみます。
受診前の方や、いまも通院中の方、また通院を終えた方に役立つ情報となれば幸いです。
「うつ」について
何も楽しめない、思わず涙ぐんでしまう、マイナス思考になる。どれも「うつ」で見られる症状です。「うつ」になると、頭の中が不安や焦りで占められ、まともに考えられなくなります。脳が空回りしている状態です。身体の変化も出てきます。疲れがとれなくなり、眠れなくなり、食欲が落ちてしまいます。
「うつ」の存在にはなかなか自分で気づけません。家族や友人など身近な人から心配され、受診を勧められて来院される方が多いです。
診察の実際
最初の診察では「一番困っていること」をまずお尋ねしています。「眠れない」「涙が出る」「やる気が出ない」というものや、「仕事に行くのがつらい」「息苦しい」「お腹が痛い」など、さまざまな答えが返ってきます。
話される内容だけではなく、診察室に入る様子や、表情、声の調子にも気を配っています。返事に時間がかかっても急かすことはありません。診察中に涙を流される方もいます。会話を一旦止めて、気持ちが落ち着くまで待つようにしています。
「うつ」の治し方
「うつ」を治すためには、バランス良く食べて、しっかり休むことが大切です。仕事や学校を休んで、1日ゆったりと過ごすことをお勧めしています。家事や育児は周りに助けてもらいましょう。治るまでに2~3か月かかることも少なくありません。
もうひとつの治療法は薬を使うことです。すぐに休職・休学できない場合や、休んでいるのに症状が治りにくい場合には、抗うつ薬や睡眠薬を使います。抗うつ薬には様々な種類があり、効果や副作用、飲み合わせなどのバランスを考えて処方します。睡眠薬については、依存性の少ないものを優先して処方しています。副作用が心配な方や、抗うつ薬や睡眠薬が体に合わない方には、漢方薬が効く場合もあります。
カウンセリングによる治療法もあります。心理職が主にその役割を担います。
何も食べられない、落ち着きなくウロウロと歩き回る、自分を傷つけようとする・・・どれも「うつ」が重症な場合にみられる症状です。入院が必要です。
自殺予防について
「うつ」で一番怖いのは自分から命を断ってしまうことです。「うつ」がひどくなってくると、「つらさから逃れたい」「早く楽になりたい」と思い、自殺を考えてしまうのは珍しいことではありません。
最悪の結果を避けるためには、つらさを一人で抱え込まないことが大切です。診察中には、「思いつめることはありませんか?」「早く楽になりたいと思いますか?」とたずねて、こうした気持ちを無理なく話せる雰囲気を作っています。
家族や信頼できる人から支えてもらうのも大切です。周りは「根性が足りない」「こころが弱い」「馬鹿なことを考えないで」などと否定や叱責をしないで下さい。つらい状況に耐えていることをねぎらい、支えるような言葉がけが有効です。
復帰の目安
退屈さを感じるようになれば回復のサインです。寝付きが良くなり、朝の目覚めが楽になります。「体を動かしたい」「買い物に行きたい」「何かを学びたい」などと意欲が戻ってきます。ここまでに通常1~2か月かかります。
この段階になれば、いつもの通勤・通学の時間に合わせて外出する練習をします。身支度をして外に出てみましょう。近所の散歩や、喫茶店や図書館の利用がお勧めです。1時間程度の外出から始めて、少しずつ時間を延ばしていきます。毎日続けても疲れが残らなければ復帰の準備は完了です。
時には退職・退学して環境を変えてしまうのも、治療のためには有効な手段のひとつです。
治療終了と再発予防
はじめは1~2週に1回の通院だったのが、回復具合にあわせて3~4週に1回の通院に変わります。薬を使っていて、日中に眠気がある場合は、量や種類を減らします。薬を飲み続けることが再発予防になりますが、その期間は人によって様々です。
薬なしでもしばらく再発しなければ、通院を終えても大丈夫です。通院を終える前に、今後の生活で心がけることや、再発に気づくためのサインを確認しましょう。適度な運動、家族や友人との団らん、趣味や息抜きの時間など、自分なりのストレス解消法を身につけましょう。
とはいえ「うつ」は再発しやすいものです。「うつ」の症状に気づいたら、頼れる医療機関へ遠慮なくご相談下さい。
おわりに
以上がよくみられる「うつ」の状態や治療の流れです。実際には、「躁」と「うつ」の両方を経験している方や、他の病気や薬の副作用が原因で「うつ」になっている方もいます。休養と服薬ですんなり治っていく方ばかりではありません。最適な治療を提供できるように、様々な可能性を考えながら診察をしています。
令和4年10月