- 子宮頸がんワクチンについて:ワクチン接種の積極的推奨の再開に際して
- 投稿者:山下こどもクリニック 院長 山下 康博
ヒトパルボウイルス(HPV)は約200種類以上あり、特にHPV16,HPV18の感染が、子宮頸がんの原因となる。性行為により感染し、約10年後に子宮頸がんの発症がピークになる。
日本では子宮頸がんワクチンが2013年定期接種となったが、その2か月後に接種後の副反応と思われる症状が多く出たため、積極的接種の推奨は中止され、接種率は0.3%にまで低下している。先進国でHPVワクチンの接種率は日本が最低であり、その間に外国からHPVワクチンの効果の報告が複数あった。
Ⅰ:日本の子宮頸がんの現状
(1)子宮頸がんの発症者は2017年11000人、死亡者は2018年2800人であり、最近増加してきており、特に30~40代で増加している。年代別では子宮頸がんは30~34歳がピークで2015年に1500人発症し、異形成を加えると30~34歳で6000人発症と大変な患者数になっている。
(2)結婚年齢の上昇に伴い出産年齢のピークは32歳であり、このピークが子宮頸がんのピークとほぼ一致しており、未産婦や小さい子供が多い30代の女性の死亡に関係している。そのため、子宮頸がんはMother killerと呼ばれている。
Ⅱ:HPVワクチンの有効性の報告
(1)2021年イギルスからの報告:高度異形成、子宮頸がんに対してのワクチンの効果の研究
①高度異形成に関して:12~13歳でワクチン接種した場合(97%減少)、14~16歳(75%減少)、16~18歳(39%減少)であった。
②子宮頸がんに関して:12~13歳(87%減少)、14~15歳(62%)、16~18歳(34%減少)であった。
結論1:イギリスでは2019年6月末時点で448例の子宮頸がんが減少し、17,235例の高度異形成の症例が減少した。
結論2:12~13歳の女児に接種することにより、25歳までに子宮頸がんとその前がん病変がほぼ根絶することが示された。
(2)2020年スウェーデンからの報告:ワクチン接種した1,672,983人の10~30歳女性の報告
①4価ワクチンを17歳未満で接種した場合、88%が子宮頸がんの発症を予防できた。
②17~30歳では53%が、全体では63%が子宮頸がんを予防できた。
(3)2022年日本からの報告:初回接種年齢とHPV16/18感染、セクシャルデビュー年齢の検討
①初回ワクチン接種年齢ごとのHPV16/18陽性率
12~15歳時接種(0%)、16~18歳(13%)、19~22歳(35.7%)、22歳以上(39.6%)、未接種(47%)
②セクシャルデビュー年齢の中央値は17歳であり、その年齢以降HPV16/18感染率は上昇する。
(4)2022年日本(新潟)からの報告:子宮がん検診を受けたすべての25~26歳の女性を対象に、性的経験、セクシャルデビュー年齢、性的パートナー数で同じような結果であったワクチン接種者群と未接種者群のHPV感染率を比較検討した。
①HPV16/18感染率:ワクチン接種者(0%) 、未接種者(5.4%)
②HPV31/45/52感染率:接種者(3.3%) 、未接種者(10%)
③接種後8.5年経過しており、長期のHPVワクチンの有効性が認められた。
☆HPV16/18は日本の子宮頸がんの原因の84.8%を占め、とくに20代の90%を占める。
報告(1)、(3)の結果より12歳~13歳~15歳の早期のワクチン接種が大切であるとの報告があることから、久留米大学小児科講師の津村直樹先生は「今後は小児科の積極的なワクチンへの関与が大切」と筑後小児科医会にてコメントされた。
Ⅲ:接種後の副反応:以下のような報告があり、子宮頸がんワクチン接種が安全であることが認められ、水痘と同等の安全性であるとされている。
(1)ワクチン接種後の局所の疼痛や不安が機能的身体症状(何らかの身体症状はあるが画像診断や血液検査などで、その症状に合致する異常所見が見つからない状態)を引き起こしていることは否定できない。しかし、接種後1か月以上経過してからの発症例は接種との因果関係を疑う根拠に乏しい。
(2)その症状は慢性疲労症候群、複合性局所疼痛症候群、起立性調節障害の体位性頻脈症候群の症状に相当するが、ワクチンを接種していない人でも10万人当たり20.4人に見られる。
(3)接種後の重篤な副反応は10万人当たり約50人であり、その内90%は回復しているが、10万人あたり約5人が持続している。
(4)WHO,欧州、米国、英国はワクチンとの因果関係を認めていない。子宮頸がんの撲滅を目指すWHOは科学的根拠の少ない理由で接種を控えている日本を非難している。
Ⅳ:キャッチアップ接種について
平成9年~17年生まれの女性は定期接種対象外であるが、令和4年4月~7年3月までの3年間、定期接種に準じたキャッチアップ接種が認められた。
(1)根拠となった報告:性交経験のある16~26歳(子宮頸がん検診異常者、尖圭コンジローム患者、性交パートナー5人以上は除く)に対し、子宮頸がんの原因になる4種類のHPVの感染率を検討した。その結果
①4種類全てに感染(0.1%) ②1~3種類に感染(26.8%) ③4種類に未感染(73.2%)
(2)未感染者で予防接種をした群と未感染者で接種をしなかった群で子宮頸がんの発症を調査
①接種者群が異形成・上皮内癌・子宮頸がん(2人/5306人)に対し未接種者群では(63人/5262人)であり、性交渉のある16歳~26歳においてもワクチン接種者は96.9%の子宮頸がんの予防効果があった。
以上のような報告はあるが、20歳以上になってHPVの感染が成立すると、ワクチンの効果が低下するのでキャッチアップ接種においても18歳までの接種が推奨されている。
Ⅴ:重篤な副反応発現時
2013年の定期接種開始時は、副反応に対しての専門施設はありませんでした。しかし、2022年4月の積極的接種推奨再開に際し、全国に専門医療機関が整備され、筑後地区では久留米大学が指定されています。久留米大学では産婦人科教室中心になり、重篤な副反応症例が見られたら、小児科・整形外科・麻酔科・神経内科・精神科などがチームを作り、対応してくれています。そういう方がおられたら、産婦人科教室に連絡すれば、早期に予約診療をしてくれるそうです。現在11名に対応しているとのことでした。
以上、最近開催された複数回のHPVワクチン講演会をまとめてみました。
令和4年11月