- 地域のこどもたちへの思春期教育
- 投稿者:松隈産婦人科クリニック 院長 松隈 孝則
この度、思いもかけず、貴会からの要請をいただき、恐縮しつつ茲に上稿いたします。
拙い内容ではございますが、開業以来、地域の母子保健活動、なかでも中高生への思春期教育につきまして、報告させていただき、先輩の皆様から忌憚のないご意見やお励ましをいただければ幸甚に存じます。
私は1975年(昭和50年)に久留米大学産婦人科学教室入局、大学および関連病院での研修を終え1986年4月、小郡市で産婦人科有床診療所を開設致しました。
大学医局時代は、思春期教育を学ぶ機会もなかったのですが、実地医家となってみますと、知識の乏しさゆえの悲しい現実に遭遇する子供たちを目の当たりにし、何かできることはないか、と模索していました。ちょうど時を得て昭和62年、福岡県内の県立高校に、性と心の相談医制度、が全国に先駆けて発足したこともあり、私に県立小郡高校の担当を命じられたことが、私にとって思春期教育のスタートとも言えます。
一般的に思春期教育が難題とされる所以は、
① 生徒ひとりひとりの、性に対する受け止め方が異なること
② 生徒を取り巻く周囲の状況、いわゆる各家庭での受け止め方が異なること
③ 教育機関では、当座の校長の意向が、その対応に大きな影響をあたえること
④ 外来講師により切り口が異なること
ではないでしょうか。
最近は、小郡高校男女、三井中央高校女子、三井高校男女、それに私が居住する地域の6中学から招聘を受け、パワーポイントを使用して、約50分間、生徒の関心を切らさずに聴いてもらえるような内容を、各校で年一回、講演を行っていますが、先日、通算300回目の講演を終えたばかりです。
私は、思春期教育は決して性教育や避妊教育だけではないと思っています。
まず自分自身を大切に生きよう、それ以上に、他人をも大切にしよう、と。
この基本が、社会生活の基礎であり、男女交際の基本であると考えます。
そのうえで、男女の考え方の違いや体の違い、さらに女性にしかわからない月経のことについても、男性も理解して応援してあげよう、と。
もちろん性別違和を感じている生徒がいることも承知の上です。悩んでいる生徒に関しては、福岡FRENSという団体の存在も紹介しています。
講話のポイントは、以下の5つのことです。
① 自分がされたらいやなことを、他人にしない
② Hするってどういうこと?
③ 月経について、男女とも学ぼう
④ 自分らしく生きよう
⑤ 転ばない人生は無い
意外と思われるかもしれませんが、最初に、畑に落ちているゴミの写真を提示します。『丹精込めて管理している自分の畑に捨て得られてゴミを拾うお百姓さんの気持ちを考えてごらん』、から講話は始まります。
自分がされたらいやなことを他人にしない、このことは男女交際の基本である、いや、男女交際に限らず、これから歩む人生において同性異性に関係なく、人生の根底をなすものです、と。
次に、性行為とか性交という言葉を、『Hする』という語で纏めます。
Hするって、どうするの?ではなく、Hするって、どういうこと?を、産婦人科医師として解説します。
皆、どうするの?ということは勿論知っているでしょうが、Hをした結果、どのようなことが起こるのか、と話します。
その後の展開として、性感染症、さらには妊娠の話に繋がっていきます
コンドームの失敗率が18%であるとの報告も文献を提示して話します。
男子生徒には、コンドームの失敗の原因として考えられる因子なども話しますが、
最後には、コンドームさえあれば、いいのか。さらに、Hした結果の最終的な責任は、
一方だけでなく男女共にあるのだ、と話します。
妊娠については、妊娠初期の子宮内での赤ちゃんの動きを動画で提示しながら、児心音を聞かせることから始めます。その後、誕生したばかりの赤ちゃんの声が響く動画も提示します。
僕も、皆さんも、こうして大きな啼き声と共に生まれ、家族に仲間入りしたのです、と。
一方、性行為の結果としての性感染症に関わる危険や疾病などについて、また将来の不妊や児への影響をもたらす危険性があることも付記します。したがって、何か気になる症状が生じたら、恥ずかしがらずにできるだけ早めに相談し受診すること、と。
次に、たいせつな生理、月経について考えてみよう、と女子にも男子にも、話します。
出産を受け持つ女性にとって大切な月経について、男子も理解してあげよう、と。
月経期間だけでなく、月経前症候群(PMS)についても解説し、それらへの対処法として卵胞ホルモン黄体ホルモンなどを利用した対応も説明します。イベントに重なるときには月経を恣意的に移動させることも可能であること、そのためには、前もって相談してください、と。
月経に関することで悩む女性は、同級生女子だけでなく、お母さんやお姉さんや妹さんかもしれないし、将来パートナーを出来た場合には、その方も月経で体調不良のことがあるかもしれないことを理解ができるような男性になってほしい、と。
性別違和を感じている生徒もいることは当然の社会であり、自分に正直に生きていい、自分の性についての考え方は、それぞれさまざまであることも話します
最後に、人生は順風満帆ばかりで全うするはずがない、転ぶこともある。しかし転んだときに、どう立ち上がるかがもっと大切だ、転んだことを悔やむばかりでなく、自分でしかできなかった貴重な体験と考えて、立ち上がろう、と話します。
さらに、立ち上がれた自信こそが、あなたをさらに大きくするのです、と付け加えます。
以上のような内容が、現在の時点での私の講話の概要です。
講話終了後、校長を含む教師側のご意見や生徒たちからの感想文をいただき、それらを貴重なアドバイスとして受け止めながら、次の講演の機会へ向けて、少しずつ改訂を重ねています。これからも、微力ながら招聘にはできるだけ協力していきたいと考えています。
最後になりましたが、私、医局時代を含み50年余、久留米大学小児科同門会の先生方には、多大なるご指導いただきましたことを、この場をお借りして御礼申し上げます。
貴、同門会のさらなるご発展を願いつつ、稿を閉じます。
久留米大学小児科学教室同門会誌に掲載(2023年4月30日発行)
令和5年7月