- 加齢による物忘れと認知症の違いは?認知症の初期症状とは?
- 投稿者:松尾医院 院長 浦江 美由紀
加齢に伴う物忘れとは?
「うっかり時間を忘れてしまう。」
「印鑑をどこにしまったか忘れて探す。」などでこれは認知症の症状ではありません。
加齢による物忘れでは覚えていることを思い出すまでに時間がかかるようになります。
そのため「約束したこと」や「印鑑をしまった事」などは覚えていて、自分が忘れていることには自覚があります。日常生活には支障がなく、認知症のような病状の進行や記憶以外の障害がみられることもありません。
認知症の物忘れとは?
「約束したことを覚えていない」
「印鑑をしまったことを忘れる」といった、そのこと自体を覚えられないことでこれは記憶の初期段階である記銘(情報を学習して覚える)ができなくなることによって生じます。
体験自体の記憶がないので本人は、「約束なんかしていない」とか「印鑑がない。盗まれた」と怒ります。「覚える」機能には支障をきたしますが、想起することはできるため、昔のことは思い出します。
認知症の症状
大きく分けて「中核症状」、「周辺症状」の2つにわけられます。
中核症状は認知機能の障害で現れる症状の事を言います。
周辺症状は中核症状に伴って起こる症状を示します。
中核症状と周辺症状の違い
中核症状は、脳の障害そのものが原因となるので、認知機能の低下した方であれば誰にでも現れる症状です。一方、周辺症状は、必ずしも全員に起こるものではありません。中核症状の状態、本人の性格、生活環境に左右されて現れます。
こんな場合は要注意 代表的な認知症の初期症状
1.同じことを何度も繰り返して言う
2.忘れ物や探し物が多くなる
3.約束の日時や場所を間違える
4.落ち着きがなくなり、怒りっぽく、頑固になる
5.単純な仕事や計算に時間がかかる
6.料理を焦がす等失敗することが増える
7.洋服に気を遣わず同じ服ばかり着たり、だらしない格好や季節外れの格好が増える
以上が「中核症状」で引き起こされる初期症状です。
2項目以上当てはまる方は、認知症や前段階である「軽度認知障害」(MCI)の可能性があります。
この7つの初期症状の中で1番気づきやすいのは1の「同じことを何度も繰り返して言う」2の「忘れ物や探し物が多くなる」です。直前の出来事や言動をすぐに忘れるので同じことを何度も繰り返したり、忘れ物や探し物が増えたりなどの「記憶障害」が現れます。
次に気づきやすいのは3の「約束の日時や場所を間違える」、4の「落ち着きがなくなり、怒りっぽく、頑固になる」です。「判断力障害」と「実行機能障害」で物事を計画的に実行することが困難になります。今までできていた料理や複雑な仕事ができなくなります。
また、今までの性格と違う行動や言動が増える「性格の変化」もサインの1つです
記憶障害
少し前に質問したこと自体を忘れ、何度も同じことを聞く等短期的に起こったことを忘れてしまいます。
実行機能障害
料理の手順がわからなくなって失敗する。今まで使っていた家電をどのように使うのか手順がわからなくなるなど、計画を立てて順序よく行動することが難しくなります。
時間の見当識障害
朝・昼・夜の区別がつかなくなる、季節がわからなくなる等日付や時間がわからなくなります。
理解力・判断力の低下
言われたことをすぐに理解して判断することが難しい、信号を渡るタイミングがわからない等理解力・判断力が低下します。
無気力・無関心(アパシー)
身の回りの事、好きだった趣味への関心が薄れ、身支度をする気力さえもなくなるなど、無気力・無関心になります。
物盗られ妄想
自分で片付けたものや失くしたものを「盗まれて」と言い出すなど被害妄想的になります。家族を疑うこともあれば、ホームヘルパーなどを疑うこともあります。
認知症の種類
その種類に応じて初期症状として現れやすい症状があります。
1.アルツハイマー型認知症の初期症状
認知症患者の約半数を占めます。その初期症状として現れやすいのは
①記憶障害 (物忘れやものとられ妄想)
②実行機能性障害 (料理などの複雑な作業ができなくなる。)
③時間の見当識障害 (何月何日かわからない。朝と勘違いして真夜中に出かけようとする。真夏に冬服を選ぶ)
④無気力・無関心(アパシー)(疲れやすくやる気がない。好きだった趣味に興味を示さなくなる。入浴、洗顔、着替えなどをする気力がない)
⑤物盗られ妄想 (「財布を盗まれた」などと言い出す。)
「記憶障害」を周りに人に知られたくない気持ちから、作り話をしたり、不安から鬱状態になったり、外出したがらなくなります。
2.レビー小体型認知症の初期症状
認知症患者の約20%を占めます。その初期症状として現れやすいのは
①幻視
②パーキンソン症状 (小俣歩行や手の震え)
③うつ症状
「幻視」はレビー小体型認知症と気づくための初期症状の決め手となることが多いです。
しかし認知症の初期症状として一番発見しやすい「記憶障害」が現れにくく、代わりに「うつ病」や「パーキンソン症状」といった別の病気に似た症状が現れるのが特徴です。
3.脳血管性認知症の初期症状
脳梗塞やくも膜下出血などの脳血管障害により引き起こされる病気です。その初期症状としては
①軽い記憶障害 (まだらぼけ:障害されている認知機能と障害されていない認知機能がある、良いときと悪いときがある)
②脳血管障害などの後遺症
脳のダメージを受けた場所によってそれぞれ異なり「運動障害」「構音障害」「感情失禁」といった症状があらわれます。
また、初期症状としての「記憶障害」は軽いです。
4.前頭側頭型認知症(ピック病)の初期症状
名の通り脳の前頭葉(人格を司る)、側頭葉(言葉を司る)が委縮する病気でその初期症状としては
①失語
②脱抑制(理性が利かなくなり、自己中心になる)
③反社会的行動(万引きや暴力)
言葉がわからなくなる「失語」が現れます。怒りっぽくなるといった人格面での変化があらわれます。
発症率は低いですが多くの人が40~60代で罹患しており「若年性認知症」とも呼ばれています。
少しでも疑わしい場合は、早期受診を
認知症の疑いがあった場合は、まず早急に医療機関に受診し検査を受けてください。
その症状がただの加齢による物忘れなのか、それとも本当に認知症なのかは医師の診察を受けなければ正確にはわかりません。
認知症で最も多いアルツハイマー型認知症の場合、進行は比較的緩やかですが、完全な治療が難しいことからも、できるだけ早期に発見して対策を打つ必要があります。
「今までと何かが違う」と感じたらすぐに受診をして医師の診察を受けてください。
認知症の進行を抑えるお薬などがあり医師に相談してください。
1今井幸充 認知症を進ませない生活と介護。 法研.2015
2上田悠里 認知症の初期症状とは?
3木村眞樹子 認知症と物忘れの見分け方。認知症のコラム
4アットホーム介護 認知症の初期症状「7つのサイン」を見抜き早期発見
令和6年4月