一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

富安医院 院長 富安 祥尚

  • 便秘と下痢
  • 投稿者:富安医院 院長 富安 祥尚

下痢や便秘を症状とする疾患は大変な数ありますので、私は排便の「しくみ」をお話しして、その「しくみ」のどこにどのような障害があったら下痢や便秘になるかは読者に考えてもらうことにしました。
排便は消化された食物が単に押し出されて起こるというものではなく、腸や腹筋などの器官と神経系の共同作業によって起こるということをまず理解してください。
朝目覚めて朝食が胃に入ると腸が動き出し、小腸と大腸を区切っている弁が開いて小腸内の半ば消化吸収された内容物が大腸に送り出されます。すると大腸に蠕動運動が始まり、内容物は水分や栄養物を吸収されながら徐々に直腸に移行していきます。 直腸にたまった残渣が増えるにつれて直腸内圧が上昇します。すると直腸壁や肛門周辺の神経センサーがそれを感知し、脳に便がたまったことを知らせ便意を感じます。
一方、その圧力信号は神経センサーを介して脊髄反射を起こして、直腸筋を収縮させ内部の圧力をさらに高めます。すると肛門を閉じている内肛門括約筋が弛緩し、いつでも排便できる状態になり、ここで脳から「排便してよし」のサインが送られると外肛門括約筋という最後のゲートが開かれて、さらに腹筋で絞られると初めて排便が始まるということです。
便意を感じるのは脳ですが、他の一連の動きは、脊髄反射や自立神経系の働きによって行われますので意識されることはありません。排便の「しくみ」は大体このようになっていて、その複雑さ精巧さには驚かされます。便秘や下痢の症状は、この排便のしくみのどこに障害があっても起こるわけで、例えば下痢の場合、腸自身に障害があっても、神経センサーが過敏になっても起こるということになります。細菌性あるいはビールス性下痢、中毒性下痢は腸の障害によって主に発症するものですし、過敏性腸症候群による下痢や便秘は、主に神経系の障害によって起こります。便秘にしても食物繊維の少ない食べ物や消化吸収のよいものばかり食べていては、便の元になる残渣がなかなか直腸にたまらず、3日以上排便がないということになるし、直腸の出口にガンができていれば、出口をふさぎ神経センサーの作用にも障害を受けて便秘するというわけです。腹筋の弱いお年寄りや女性が便秘しやすいのもお分かりでしょう。
下痢や便秘を病気というのかどうかは分かりませんが、風邪以上に多い疾患だと思います。原因によっては怖く厄介なものもありますが、大半は薬を飲んだり食習慣を変えるとかで治ります。あまりこだわることもないと思いますが、こだわらなければ大腸ガンを見落としたり、あまりこだわれば神経性の下痢や便秘を引き超こしたりしますので、その意味では厄介な病気といえるかもしれません。急性はもちろんですが、慢性の下痢、便秘もきちんと医者の診察を受けるのが賢明でしょう。

 

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