一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • 丹田呼吸法
  • 投稿者:丸山病院 和田 耕一

 最近、村木弘昌氏が書かれた、「白隠の丹田呼吸法」を読み返してみました。やはり呼吸というものは、健康と深く関わっているものであることを再認識した次第です。呼吸のメカニズムは体にとって最も重要なものです。私たちは呼吸をしないと生きていけません。数分間呼吸が止まるだけで脳神経細胞は働きをやめ、例え命を取りとめたとしても重大な後遺症が残ります。ヒトの場合はほとんどが肺呼吸で、皮膚呼吸は1%以下です。肺呼吸のために胸腹式呼吸をしています。息を吸う時に胸をふくらませお腹も少しふくらませ、吐くときはこの逆です。
この著書のなかで、氏は呼吸でも丹田呼吸を力説しています。 丹田とは、臍下10cm程のところを言い、普通の腹式呼吸では吸うときに腹部を意識せずに膨らませますが、丹田呼吸では、吸う時に丹田の辺りに呼気が溜まるように十分意識して、ゆっくり吐きます。こうすることによって、普通よりはるかに胸郭が拡張し、酸素吸入量が増大するのです。

 この呼吸法はお釈迦さまが、修行として用いていたそうです。著書のなかに、白隠が禅に打ち込むあまりに無理が続き、禅病や結核を患い、諸所治療に訪ねるも治らず、山奥の仙人に丹田呼吸法を伝授され、やっと快癒したことが書かれています。
白隠慧鶴は17世紀末から18世紀にかけて生きた臨済宗の中興の祖といわれる禅の名僧です。ここで書かれている禅病とは、あまりにも禅の修行に打ち込みすぎて、逆にいろいろな不定愁訴がでてくるものです。精神の悟りを開くべき修行で、逆に精神を病むこともあるのです。
村木弘昌氏は医師であり、この丹田呼吸法で、高血圧や糖尿病などが改善した例は枚挙にいとまがないと述べています。

 日本漢方では、腹診を非常に重要視します。腹部の状態で、ある程度病態が把握出来るのです。つまり、病気はお腹に現れているとも言えます。勿論,脈診や舌診も併用しますが、腹部の診察は特に重要なのです。お腹に弾力があり柔らかく,押さえても痛みなどがないのが望ましいと考えられています。腹部には五臓六腑(ごぞうろっぷ)の腑(ふ)が集まっていて、胆嚢、胃、小腸、大腸、膀胱、三焦が、丹田呼吸により何らかの刺激を受けている可能生があると村木先生は考えています。三焦(さんしょう)とは伝統中国医学における五臓六腑の六腑の一つで、働きがあって形がない理論上の腑です。
丹田呼吸により横隔膜の運動が促進され、酸素の吸入増や二酸化炭素の排出増が考えられますが、それに加えて、東洋医学では気のめぐりも重要視され、個人的には、腑の刺激による気のめぐりの効果も大きいのではないかと考えています。
私たちが驚いたり、悲しんだりするときには、呼吸が乱れるのは皆が知っている事実です。これが人間のストレスとして自律神経に大きな影響を与えることは医学的にも明らかになっています。

 丹田呼吸では「呼吸を観る(こきゅうをみる)」ということが重要だとされています。「呼吸を観る」とは、不思議な表現でなかなか理解しがたいとは思いますが、瞑想やヨガではよく使われる言葉です。自分の呼吸を充分観察しながら、一呼吸一呼吸を丁寧に行なうことと考えてください。一度実践して見れば分かるでしょう。呼吸に集中している時は、何も考える事が出来ない。激しい感情の渦に巻き込まれているときでも、呼吸を観れば、感情に左右されていない自分を発見出 来るはずです。お釈迦さまが、呼吸法を重視したのもこういった理由からなのでしょう。
内科医として付け加えておきます。喫煙は、酸素を吸って炭酸ガスを出すガス交換としての呼吸そのものの場である、肺機能を低下させます。発癌や動脈硬化との関連が強いことはすでに常識となっています。タバコで一服するよりは、まずはゆっくりと、そして精一杯最後の最後まで息を吐き出しきり、新鮮な空気を鼻から吸い丹田に集める丹田呼吸法をやってみてはいかがでしょうか。一週間続けてみたらその効果に気付くはずです。

参考文献
村木弘昌 「白隠の丹田呼吸法」

平成23年3月

PAGE TOP