- 「骨粗鬆症の治療を継続して正しく受けましょう!~寝たきりの原因となる骨折を防ぐために~」
- 投稿者:嶋田病院 整形外科 黒木健文
日本人の平均寿命は女性で86歳を超え、男性も80歳になりつつあり、超高齢社会になっています。こういう時代には寝たきりにならないで元気に天寿を全うする健康長寿を保つことが非常に重要となります。
寝たきりになる大きな原因の一つが骨折や関節疾患に関わるもので、要介護状態になる原因の多くを占めています。そして高齢者に骨折を生じる最も大きな基礎疾患が骨粗鬆症なのです。その約7割が女性で、80歳代の80%以上の人にみられると言われています。
しかし骨粗鬆症患者は全国で約800万~1000万人もいると推定されていますが、実際に治療を受けているのはそのうちの25%程度(4人に1人)に過ぎないと言われています。
1.高齢者の転倒による骨折が急激に増えています。
日本は65歳以上の高齢者の人口が20%を超え、急速に超高齢社会に突入しています。それに伴い高齢者が転倒することにより生じる代表的な下肢の骨折である大腿骨近位部骨折は急速に増加し、年間に約15万人が発症し(毎日400人以上が骨折していることになる!)、20年前の約3倍に増加しています(図1)。最も頻度が高く、腰が痛くて動けなくなる脊椎圧迫骨折に至っては女性では2~3人に1人が、男性では3~5人に1人が罹患すると言われています。その他に上腕骨近位部骨折(肩関節の骨折)、橈骨遠位端骨折(手関節の骨折)等が骨粗鬆症があるために非常に多く発生している骨折です。これらの骨折は受傷した高齢者の生活の質を著しく低下させます。
これらの治療に当たる我々整形外科医は日夜獅子奮迅の働きを余儀なくされ過労死寸前といっても過言ではない状況なのです。
2.要介護状態になる主要な原因が骨折や関節障害です。
高齢者が寝たきりになる大きな原因は骨折や関節障害で約27.5%(4人に1人)を占めます(図2)。大腿骨近位部骨折の約20%(5人に1人)は1年以内に死亡し、約30%(3人に1人)は要介護者になると言われています。従って骨粗鬆症を起因とする骨折や関節障害を防止することが生命予後や生活の質を高めることになります。
3.高齢者に急増しているこれらの骨折は骨粗鬆症のある人に特に生じやすいと言われています。
骨折を生じる危険因子にはいくつかありますが、骨粗鬆症(低骨密度者)は約1.5~3倍骨折リスクを高めると言われています。その他に既存骨折、喫煙、アルコール飲酒、ステロイド使用、骨折家族歴、運動習慣なし等が骨折リスクを高めるので注意が必要です。
4.骨粗鬆症の検診・治療を継続して受けることが非常に大切です。
以上述べた如く、高齢者における骨粗鬆症やそれを基盤とする骨折は、本人の生命をおびやかすばかりでなく、生活の質を低下させ健康寿命を短くし、そして家族に負担をかけ、さらには多大の医療費を費やすことになります。
骨粗鬆症の治療薬には多くの種類がありますが、その代表的なものはビスホスホネートという骨吸収抑制剤です。このなかのアレンドロネート(フォサナック、ボナロン)は欧米では早くに認可され、すでに20年近い歴史があり、この間にこの薬が使用された60~70歳代の大腿骨近位部骨折の頻度は明らかに低下したと複数の国から報告されています。しかし何故か80~90歳代の骨折患者は急激に増加しているのです。幾つかの原因があると思われますが、その中で骨吸収抑制剤の使用が途中で中断されることが多いためではないかとも言われています。それ故超高齢者に対してもきちんと治療を継続し、骨折を防ぐようにすべきではないかと言われています。
骨粗鬆症の検診を定期的に受け、骨粗鬆症の治療をきちんと継続して受けることにより(特に骨折を一度生じた人は必ず治療を継続すべきで、同じ人が何度も骨折を繰り返すことがよく経験されます)、寝たきりの原因となる骨折を防止し、いつまでも元気に動ける質の高い豊かな健康長寿を全う致しましょう。
(図1)
(図2)
平成22年7月