- そうだったのか!がんの話
- 投稿者:林整形外科クリニック 院長 林 晃一
連日のテレビ番組で「そうだったのか!池上 彰の学べるニュース」を拝見しまして、世界中に難しい社会の出来事を分かりやすく噛み砕いて説明してくれること、ほんとうに感心しました。ついつい自分の能力を超えて、彼をまねして、難しく思われがちな医学の出来事も、一般の人に分かりやすく解説してみようと思います。
先ず、お断りしておきますが、医学は日進月歩で、現時点でもどこかで、今までの知識を翻すような最新の研究発表がなされています、だから今日の常識は明日の非常識になるかもしれません、その積もりで見てください。
日本人の三大死因の第1位「がん」について話してみようと思います。
「がん」はどうして出来たのか、「がん」は、私たちの体の細胞の遺伝子に異常が入ることで発症する遺伝子の病気です。その遺伝子の異常で私たちの体は正常な細胞を作らずに「がん」細胞を無制限的作ってしまう、体が正常に働けなくなります。発がんのメカニズムはイニシエーション(initiation)、プロモーション(promotion)、プログレッション(progression)という3つの過程が関与していますと大勢の研究家が考えています。(図1)
「分かりにくい専門用語の羅列ばっかりじゃないか!」とお叱りを受けるかもしれません。そうですよね、専門家の教授に聞くと、どうしても専門用語が出てくることを避けて通るわけにはいけません。では、私が素人の立場から素人の言葉で解説してみましょう。
私たちの体は約60兆個もの細胞から成り立っていますが、各々の細胞は遺伝子によって予め設計された設計図の通りに増やして(分裂して)集めて、臓器、組織になって行きます、正常な細胞は決められた分裂回数(周期)で分裂をやめて死んで行きます(アポトーシス)。こうして体の細胞は常に新しい細胞に作り変えられていくのです、細胞の数も常に一定の数で、多すぎても少なすぎてもないようにバランスよく保たれております。がん細胞の場合は、細胞周期のコントロールから逸脱して、無秩序に分裂(増殖)していく、体の正常な営みを困らせます。そもそも私たちの体には各細胞の数の増殖を促す物質と逆にそれを抑える物質を持ち合わせています。体の正常な営みもその両方の正常なコントロールによって成り立っています。細胞のがん化には細胞周期の調整に中心的な役割を果たしている分子の遺伝子がなんらかな異常で突然変異していると考えられます。
では、「がん」細胞はどんな細胞ですか、正常な細胞とどう違いますか。「がん」細胞はもともと「自己」の細胞です、種々の原因により遺伝子に突然変異を起こすなどして、「自己」から逸脱し、際限なく増殖するようになったものです。がん研究の専門家HanahanとWeinbergは「がん」となるために必要な性質として1.自律的増殖能力2.増殖抑制シグナルへの不応答3.アポトーシスの回避4.無制限な複製能力5.継続的な血管新生6.組織への浸潤性と転移能、6つのがんの特質を提唱している。
発がんの過程で異常を起こしている遺伝子はどんな遺伝子ですか。
1つはがん遺伝子もう1つはがん抑制遺伝子であります。がん遺伝子は遺伝子変異、遺伝子増幅、染色体の一部がちぎれてまたは全部が他の染色体にくっ付いた状態です。がん遺伝子による発がんするものは消化器がん、乳がん、血液腫瘍などが判ります。がん抑制遺伝子は発がんにブレーキかける遺伝子の異常(遺伝子変異、欠失、DNAメチル化)で正常な細胞ががん化してしまいます。
図1.がん細胞が出来るまでのプロセス
図2.
私たちの体は毎日のように細胞の遺伝子が何らかの原因で傷ついたり、異常を生じたりするものです。このレベルは体が自力で傷ついた遺伝子を修復して、異常な細胞を自己免疫力で排除できます。しかしがん遺伝子とがん抑制遺伝子の両方が傷つくとがん化細胞は増殖し始め、歯止めがかからない状態になります。この段階から、画像診断、内視鏡検査等では確認できない微細ながん細胞(5mm以下)でも遺伝子診断できるようになりました。残念ながら、この遺伝子診断を全国民の健康診断に取り入れることは費用対効果の面から非現実で困難です。現在がん遺伝子診断はもっぱらがん化学療法領域において、分子標的治療薬の選択と効果の予測と評価に用いられています。
超早期診断を可能にしたことと伴にがん治療技術の進歩で、「がん」という病気を完治することは夢ではなくなります。いずれにしてもかなり高価な費用がかかることは間違いありません。治療の技術はかなり進んでいます、分子標的治療、重粒子線の放射線治療など、最先端の治療技術がつぎつぎと出てきます、この辺の解説はがん治療の専門家に委ねましょう、ここで詳しく述べることを割愛します。
では、私たち自身はどうすれば「がん」から体を守れるでしょか、いうこともなく、それは「がん」という病気に罹らないようにすれば良いでしょう。「がん」という病気の原因がはっきり分かっている以上、その原因を予防する術があるでしょう。図3.は1981年リチャード・ドル氏が挙げているヒト発がん因子です。挙げられた因子に対して、その予防対策を考えて見ましょう。
がん予防について、すでにネット上はいろんな情報が氾濫し、あれこれと宣伝しています。がん予防は1つのがんに対するものではなく、体全体のがんに対する予防が基本です。がん予防はサプリメントや薬を飲むだけではなく、食事、生活、環境など全般的に考えなければいけません。
科学的な根拠に基つく「がん」の予防方法
1.タバコを吸わない 発がん因子の30%も占めているタバコをやめましょう、他人のタバコの煙も避けたほうが良いでしょう。タバコ以外にも、汚染された大気環境やカビ生えやすい居住環境も改善あるいは回避しましょう。
2.生活習慣病の予防 肥満、糖尿病、高血圧症、高脂血症などの病気は食事の内容、習慣、運動不足などの原因から来すものが多い。生活習慣病は体の遺伝子を傷つく、がん発生の温床となります。疫学調査は食習慣と環境でがんの種類と発生頻度が違い、生活習慣の改善でがんの予防につながっていると分かっています。
3.ストレスを避けましょう ストレスはがん遺伝子とがん抑制遺伝子を傷つくと研究で明らかになっています。ストレスがかからない生活は長寿の秘訣と証明されています。
4.感染症の予防 とくにウイルス性感染症はウイルスにより遺伝子を壊れやすくなるので、細胞のがん化になりやすいと言われています。子宮頸がんの原因はほぼ100%がヒトパピローマウイルス(HPV)による感染、すべての女性の約80%が一生一度は感染しているといわれています。肝細胞がんの原因は約72%がC型肝炎ウイルスです。
5.睡眠や休息の時間を充分に 夜10時以降3時までの間、体を休ませると成長ホルモンがよく分泌し、傷ついた細胞や遺伝子を修復してくれると研究で判りました。夜が更ける生活はがんが出来やすい体質を作ってしまいます。
6.最後に、遺伝子の異常発生、細胞がん化し始めの早期がん検診と早期治療は最大のがん予防でしょう。検診と治療技術の進歩で、がん治療がしやすくなる、ひいてはがんを完治することも可能です。
図3.
平成23年12月