一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • その疲れは病気なの?慢性疲労症候群の話
  • 投稿者:梯 医院 院長 梯 龍一

疲れ(疲労感)やだるさ(倦怠感)は日常的にだれもが経験している感覚で、激しい運動や長時間の運動を行った時や精神的ストレスによって、体から発信される重要なアラーム信号の1つであります。普通、このような疲労感は一晩の睡眠やレクリエーションなどによって回復します。
それに対して病気になった時の疲れ、疲労感は休息をとってもあまり回復しません。また6ヶ月以上にわたる長引く疲労感は「慢性疲労」と言い、疲労感の程度や病気にかかっているか否かに関係なく、日常生活には全く支障ない程度の軽い疲労感でも、6ヶ月以上の期間続いている場合は「慢性疲労」と呼ばれています。

 一方、「慢性疲労症候群」は1つの病気を意味するもので、厚生労働省の診断基準があります

(1)生活が著しく損なわれるような強い疲労感を主症状とし、少なくとも6ヶ月以上の期間持続ないし再発を繰り返す。この強い疲労とは短期の休養で回復せず、1ヶ月に数日間は会社や学校を休まざる得ない様な状態を言います。
(2)医師の診察と臨床検査により明らかな病気が見つからないこと。
(3)以下の11項目中8項目を満たす。
 ①微熱ないし悪寒、 ②喉の痛み、 ③リンパ節腫脹、 ④原因不明の筋力低下、 ⑤筋肉痛又は不快感、 ⑥軽く動いた後で24時間続く全身倦怠感、 ⑦頭痛、 ⑧関節の痛み、 ⑨精神神経症状、 ⑩睡眠障害、 ⑪急激な発症

 つまり慢性疲労症候群とは、これまで健康に生活していた人が原因不明の強い倦怠感、微熱、頭痛、脱力感や思考力の障害、抑うつ等の精神神経症状などが起こり、その状態が長期にわたって続くため、健全な社会生活が送れないという病態であります。
この慢性疲労症候群は、1984年にアメリカで初めて報告され、1988年に診断基準が定められました。日本では1990年に国際的診断基準を満たす第1例が報告され、その後日本における診断基準が設定されました。
慢性疲労症候群は感染症をきっかけに発症した症例がみられることや、ときに集団発生をしたり、多くの症例で発症時に感冒様症状がみられること等により、原因としてウイルス感染が疑われ、いくつかのウイルスの関与が考えられていますが、しかしすべての患者を説明できるような特定のウイルスは見い出されていません。

 診断基準を満たす慢性疲労症候群は、以下の2つのタイプに大別されます。
1)インフルエンザや急性伝染性単核球症などの急性のウイルス感染症後に発症する感染後慢性疲労症候群。
2)ストレス等の環境因子が先行し、神経・内分泌・免疫異常に伴い潜伏感染しているヘルペスウイルスの再活性化や、サイトカインの産生異常が引き起こされ微熱、倦怠感が見られる慢性疲労症候群。

 慢性疲労症候群の有病率は診断基準を満たす症例は、人口10万人あたり当初は4~8人と報告されていたが、その後の調査で診断基準の小項目に欠ける疑い例を含めると、人口10万人あたり100~200人存在すると推測されています。したがって、原因不明の疲労とともに、微熱や筋肉痛や思考力障害がみられる人は決して稀なものではないと思われます。

 慢性疲労症候群の治療に関して、現在原因が明らかでないので特定の治療法が見つかっているわけではなく、抗ウイルス剤・免疫調節剤・ビタミン剤等さまざまな治療が模索されています。精神症状が強い場合は抗精神薬や睡眠導入剤、筋肉痛や関節痛が強い場合は消炎鎮痛剤も併用しています。また、患者の病気に対する不安感を和らげるためカウンセリングも一部有効であります。

 慢性疲労症候群の予後は、感染症に発症するタイプは比較的良く、2~3年以内に多くの症例で治癒します。しかし疲労とともに身体的障害や気分変調を伴っているタイプでは、10年以上にわたっても緩解しない症例もしばしばみられます。

一時期社会的な話題としてマスメディアで取り上げられましたが、最近では報道されることはなくなっています。しかし原因不明で、治療法が見つからず、疲労感という他人からは理解しがたい症状で苦しんでいる患者は多く、慢性疲労症候群の知識の広まりと、原因の解明、治療法の確立が望まれます。

平成20年3月

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