- ソケイヘルニア
- 投稿者：いけだクリニック 院長 池田 秀郎
足（大腿）の付け根，おなかとの境をソケイ部という。そこに柔らかな隆起を認める事が有ります。立ったときに目立ち，仰向けに寝るとわからなくなる。これが俗に言う『脱腸』すなわちソケイへルニアです。
小児のソケイヘルニアは先天性ですが，中高年のソケイヘルニアは先天性要素に加え，重たいものを持ったり便秘で力んだりが続き，腹圧が上昇してソケイ管（腹腔内と睾丸や陰唇をつなぐ筒状の管で、中に男性では精索動静脈や精管が、女性では子宮を支える靱帯が通っている）の周りの筋肉や筋膜が緩み、腹膜とともに腹腔内の小腸やその周りの組織が皮下に突出するようになり起こります。
突出してもすぐに戻る間は症状も違和感や軽い痛みだけですが，戻らなくなると陥頓ヘルニアと言って危険な状態になります。すぐに整復できないと，腸閉塞の状態になり，突出した小腸が壊死に陥り腹膜炎を併発し緊急手術を必要とする事も有ります。
ソケイヘルニアは突出する位置で3つのタイプに分けられます。
１：外ソケイヘルニア
ほとんどの幼児と成人が発症するのが、外ソケイヘルニアです。ソケイ管の腹腔内との連絡穴を内ソケイ輪と言います。その穴の隙間から腹膜をかぶったままお腹の中の内容物が出てきてしまいます。
2：内ソケイヘルニア
中年以降の男性に多いのが、内ソケイヘルニアです。内ソケイ輪からではなく、ソケイ管を形成する横筋筋膜などの筋膜が緩み、そこから直接小腸が腹膜をかぶったまま出てきてしまいます。ソケイ部のやや内側から出てきます。
3：大腿ヘルニア
中年以降の女性に多く見られるのが、大腿（だいたい）ヘルニアです。ソケイ部よりやや足のほうにある大腿管と呼ばれる管を通って起るヘルニアです。ソケイヘルニアの中では最も嵌頓しやすいタイプです。
治療法ですが，以前は突出部に蓋をするようなヘルニアバンドという器具も有りましたが，これはかえって壊死を起こす事が有り，非常に危険な為最近はあまり使われていません。現在は外科的手術が行われます。ヘルニア嚢を切除し、緩んだ筋膜を縫縮する方法が基本ですが，弱った筋膜が裂け再発する事も多く，術後しばらくはベット上安静が必要です。
そこで最近ではメッシュプラグやクーゲルパッチなどの人工補強材を利用する事が多くなりました。また腹腔鏡を用い腹腔内からのアプローチも試みられています。これらにより早期離床・早期退院が可能となってきました。
ソケイヘルニアとまぎらわしい病気としてはソケイリンパ節の腫脹が高頻度ですが，その他稀なものとして，陰嚢水腫・睾丸腫瘍・副睾丸炎・精索捻転などがあります。
思い当たる症状の有る方は，ぜひ一度ご来院ください。
平成22年7月
