- ピロリ菌感染胃炎の除菌治療
- 投稿者:渡辺内科胃腸科医院 院長 渡辺 正俊
ヘリコバクター・ピロリ菌(以下ピロリ菌)については、すでにこのコーナーで取り上げられていますが、このたび慢性胃炎に対しても保険で除菌治療が可能となりましたので、再度紹介したいと思います。
1 ピロリ菌とはなんなのか
従来胃内は強酸性のため細菌は生息できないと考えられていましたが、1982年にWarrenとMashallの二人が胃内に細菌が生息していることを発見、これが後にピロリ菌と命名されました。
なぜピロリ菌が強酸性のなかで生息可能かというと、自身の持つウレアーゼという酵素で胃内の尿素を分解してアンモニアを産生、これにより胃液を中和して生存可能な環境を作りだしているわけです。この巧妙な仕組みには驚嘆させられます。
主な感染経路として考えられているのは不衛生な飲み水で、このほか便を介してや、口から口への感染が考えられています。
一般的に後進国では感染率が高く、日本では高齢になるほど感染率が高くなっています。
2 ピロリ菌が関係する病気
(1)胃潰瘍、十二指腸潰瘍
感染により粘膜の防御機能が低下して発生する。除菌治療が始まってから再発が激減しました。
(2)胃がん
現在大多数の胃がんはピロリ菌の持続感染による慢性胃炎を経て発生すると考えられており、除菌により胃がんの予防が可能と考えられています。
(3)MALTリンパ腫
低悪性度のリンパ腫で除菌により治癒することが可能です。
(4)特発性血小板減少症
胃の病気とは関係ありませんが、除菌により軽快することがあります。私も1例経験したことがあります。
3 診断
胃カメラにより胃の粘膜を生検採取して検査する方法(鏡検法、培養法、ラピッド・ウレアーゼテスト)やピロリ菌が産生する二酸化炭素を測定して診断する方法(尿素呼気試験)、血液中の抗体価を調べる方法などがあり、これらのいずれかの方法でピロリ菌の感染を証明することが必要です。
4 慢性胃炎の除菌治療
潰瘍の除菌治療と同様、抗生物質2種類(ペニシリン、クラリスロマイシン)とPPIという胃酸抑制剤を一週間服用します。
通常使用する量の倍量を使いますので下痢などの胃腸症状が起こることがあります。
ここで注意が必要なのは胃炎の除菌に際しては、必ず胃カメラでピロリ菌感染胃炎の所見があり、これに加えて前述したいずれかの方法でピロリ菌の感染を証明する必要があることです。
胃カメラが苦手という方もいるでしょうが、現時点では保険での除菌には必須となっていますのでご理解下さい。
5 除菌の判定
内服終了後一ヶ月以上たって除菌ができたかどうかの判定を行います。この場合除菌後の抗体低下には数ヶ月かかりますので、血中の抗体価を測定する方法は効果判定には不適です。
以前はほとんどが除菌可能でしたが、最近では抗生物質に抵抗性のある菌が出現しており、除菌出来ない例も増えています。
この場合はクラリスロマイシンにかえてメトロニダゾールを使用して再除菌をおこないます。
最後に当院での除菌方法を紹介しますと、胃カメラでの胃粘膜を生検採取して培養をおこない、陽性であればサワシリン(ペニシリン)、クラリス(クラリスロマイシン)、オメプラゾン(PPI)で除菌をおこない、再除菌にはフラジール(メトロニダゾール)を使用します。
胃がんの予防のためにもぜひ除菌治療をおこなうようにして下さい。
平成25年4月