- メンタルクリニックを訪れる人々
- 投稿者:柴田メンタルクリニック 院長 柴田史朗
近頃は、精神科や心療内科に対する敷居が随分低くなり、小郡のような田舎でも、結構気楽に受診される方々が増えてきました。とは言っても、やはり受診される前はかなりの勇気を要する方が多いようです。「他人から変に見られやしないか」「こんな事で受診して良いのか」「身内の恥を晒したくない」などなど、不安が募ります。そのような方のために、当クリニックの現状をお伝えします。
昨年12月、新たにクリニックを受診された方は31人でした。
1)病状別区分は、
①パニック発作を初めとする、不安症状(11人)
②うつ病を中心に、エネルギーを消耗した状態(9人)
③統合失調症など、幻覚・妄想状態(7人)
④認知症の症状(4人)
⑤てんかん発作(1人)
2)紹介経路は、
①患者さんの知人、他の医師、公的機関などが3分の2
②インターネット、電話帳、看板を見て、が3分の1
3)症状を生じさせた主たる誘因(認知症・てんかん発作を除く)は、
①配偶者・子供・孫など家族の心配、職場や学校での対人関係ストレス(10人)
②オーバーワーク、受験のストレス(6人)
③身体疾患の心配(3人)
④学校や職場自体が合わない(3人)
⑤その他(5人)
症状や誘因は重複していることが多いのですが、あえて粗雑に上記のように区分してみました。オーバーワーク一つとっても「周りも皆14時間労働をしている」といった女工哀史のような状況もあるし、「人が良く、仕事を断れず、その人に仕事が集中してしまっている場合」など、千差万別です。
薬の効き方も様々ですが、お顔を拝見して2、3分話すと、薬が効きやすいか否かが、だいたい判ります。症状が主に性格に根ざしている時や、くすんだ症状がその人に長期間べったりと染み付いている時は効きにくく、症状がはっきりして、新しく、ストレスが解決可能な時は効きやすいのです。
たとえば、真面目で、潔癖症で、完全壁が強く、一生懸命仕事をし、その結果、疲れ果て、不幸にも、うつ病となり、更に、なけなしのエネルギーを全て、うつ病の克服に注ぎこみ、ますますエネルギーが枯渇している人。
あるいは、気が弱く、めまいやふらつきが生じやすく、子供は何年も引き篭もり、夫は家庭に無関心、おまけに、お前に似たから、お前の育て方が悪かったから、と聞く耳持たず、かといって離婚しても生活できないし…と何年も憂鬱でイライラした日々を送っている主婦などは薬だけでは治療になりません。
一方、次のような人は薬がよく効きます。上司とうまくいかない、やや知的能力に問題がある人が、家で興奮し、壁をたたき夜も眠らない。会社にも行きたがらない。以前にもこういう事があったが、職場を変えてもらったら、すぐに落ち着いた。経済的にも困らないので、場合によっては仕事を辞めさせてもよい、と家族は腹をくくっている。仕事が無く、借金で首が回らず抑うつ状態になっている人に抗うつ薬はほとんど効きません(本当の重度のうつ病になっている時は別です)。仕事の世話をする、金を貸すのが一番です。それが出来ない時は、生活保護の申請や、場合によっては破産宣告、和議の申請などを勧めるといった現実的な対応が必要となります。
同様に、「夫と別れたいが別れられない」「同居の姑、あるいは嫁に我慢ならん」と苦しんでいる人の治療では、なんとか相手とうまくゆく方法を一緒に考え、どうしても解決方法が見つからないときは、別居という選択肢をとることもありえます。うつ状態だからと闇雲に抗うつ薬を投与し、効かないからと、ますます薬を増やす事は患者さんの苦痛を増強するだけです。
メンタルクリニックの醍醐味は、患者さんと一緒に解決方法を見つけ、患者さんが幸せになった時、その幸せのおすそ分けに医師が与ることにあるわけで、「私は医者なのでカウンセリングはしません」「薬だけしか処方しません」というメンタルクリニックの医師(結構多いのです)は一体何を楽しみに仕事をされているのだろう、と考えてしまいます。
偉そうなことばかり書いてしまいましたが、新年早々、患者さんを怒らせてしまいました。 「両親をはじめ、家族は皆私にばかり頼り、子供の頃からいつも、割を食ってきた。とても悲しいし腹立たしい」という訴えでした。時間をかけて後でゆっくりとお聞きしようと思い、別室で待っていただいたのですが、その日はあまりにも患者さんが多く、あまりにも長時間お待たせしてしまい、その結果、怒って帰ってしまわれました。「長い付き合いだから」と勝手に私が患者さんに甘えた結果でした。この紙面を借りてお詫び申し上げます。我々医師は私のように患者さんから甘やかされる事が多く、あっそう総理の言うとおり、非常識な人間も私を含めたくさんいます。皆様の率直なご意見だけが医師を鍛えます。どうか皆様、我々に常識をお与え下さい。
平成21年2月