- 下肢静脈瘤
- 投稿者:嶋田病院 血管外科 石原 健次
田中久志先生より依頼を受け今回初めて小郡三井医師会のホームページに寄稿させていただく事になりました。貴重な機会を与えていただき誠にありがたく思います。病気の話に入る前に簡単に自己紹介をさせて頂きます。1965年昭和40年に鹿児島県大島郡喜界島(奄美群島にある喜界島)で2人兄弟の長男として生まれました。祖父が内科医をしていたこともあり幼少期から医師になりたいと考えていました。久留米大学医学部に入学し平成4年に久留米大学第2外科(現在は1外科、2外科が統合され外科学講座となる)に入局しました。臨床研修を経て医師5年目から現在の専門となる血管外科の道に進みました。ようやくですが、今回の病気のテーマである、「下肢静脈瘤」に初めて出会ったのがこの頃になります。
ご存じのように下肢静脈瘤とは、誰もが見た目で一見して分かる足の静脈が膨らんでコブ(瘤)になる病気です。遺伝や妊娠、職業(立ち仕事)に関連があると言われています。現在、患者数は1000万人以上と推定されており、血管の病気としては最も多いと言われています。下肢静脈瘤はかなり古くから治療法が確立されており、コブ(静脈瘤)の原因となる静脈を引き抜く手術(ストリッピング手術)が長く行われてきました。その後治療、診断の画期的な転換期が2011年に訪れます。診断方法は静脈造影からエコー検査へストリッピング手術はレーザーを使用した血管内焼灼術へと変わっていきました。ストリッピング手術の時代は必ず入院が必要で3日から1週間も入院が必要でした。麻酔方法も変わりました。腰から針を入れて痛みを抑える下半身麻酔(腰椎麻酔)は皮膚表面から鎮痛剤を注入する局所浸潤麻酔と鎮静剤(静脈麻酔)におきかわり、手術が終わるとすぐに麻酔の影響がなくなるため、手術終了と同時に歩くことができるようになりました。そのため現在の下肢静脈瘤の手術は日帰り(外来)でおこなう事が普通になりました。痛みもまったくないわけではありませんが、ストリッピング手術の頃から比べると雲泥の差があります。しかし、困った事に、レーザー手術がカテーテルを使用して比較的簡単に行えるために、手術の専門である血管外科以外の循環器内科や皮膚科、形成外科の先生も血管内焼灼術を行うようになり(当然、専門医の試験合格者に限りますが)全国津々浦々で行われるようになりました。その弊害として、手術(血管内焼灼術)は行ったものの、術後の診察は疎かになり、再発(少ないですが起こりえます)や痛み、出血、血栓症などの合併症に対するフォローが不十分になり、他の医療機関で手術した方達が嶋田病院に調子が悪いと来られる事が多々みられました。それらの患者さんの中には適切に治療が行われていない事や術後の診察をきちんと行っていないことがありました。よく患者さんから聞く話があります。「足の静脈瘤を他の先生に相談したら、痛みはあるの?痛みがなければ命にかかわる病気じゃないのでほっといて大丈夫、靴下(弾性ストッキング)でも穿いておきなさい」と言われました。確かに下肢静脈瘤は命にかかわる重大な病気ではありません。しかし、患者さんは困って気になってお医者さんに相談しています。自分も若い頃は手術までする必要のない軽症の下肢静脈瘤の方に同じような事を言っていたような記憶があります。それが、25年間も下肢静脈瘤の診療に携わってきて、そのような発言はなくなりました。小さなものも大きなものも、本人にとって気になればそれは大変重要な事だと気がついたからです。そして静脈瘤はどのような病気で、どのような治療があって、このまま経過をみていいのか、治療した方がいいのか、積み重ねてきた経験を元に、患者さんの希望に照らし合わせ、丁寧に説明するようになりました。そのお陰なのか分かりませんが、医師会の先生方の紹介や手術を行った患者さんの口コミなどで、ようやく、嶋田病院で下肢静脈瘤の手術ができる、と認識して頂けてきたような気がします。そして、多くの患者さん(約3500人の手術)に接する事で、自分自身も人生や生き方、生きがいなどのついて学ぶ事ができ、成長させて頂いたと感謝しています。下肢静脈瘤の診療の基本は手術ではなく患者さんの話を聞くこと、診察する事だと実感する今日この頃です。医師になりたての頃に先輩医師に言われたことが脳裏に浮かびます。検査じゃないんだ、まず、患者さんを見て、話を聞いて、触って、診察が大事なんだ。今年56歳、遅きに失する感もありますが、人生(人間として医師として)終わり良ければ全て良し、過去と他人は変える事はできないが、未来と自分は自分自身で良い方向に変える事ができる。これからも下肢静脈瘤だけでなく全てにおいて丁寧、親切な診療を行っていきたいと考えています。
令和3年8月