- 乳がんの発症要因(乳がんの遺伝子検査をふまえて)
- 投稿者:松尾医院 院長 浦江 美由紀
最近アメリカの有名女優が、乳がんの遺伝子検査で乳がんになる確率が高く、予防的に乳房切除術、切除後の乳房再建術を受けたと報道されました。
このように、乳がんや卵巣がんの5~10%は遺伝的な要因が強く関与して発症していると考えられています。
乳がんの遺伝子検査って何?
最近“遺伝子検査”という言葉を耳にしますがどんなものでしょうか?
乳がんにかかる方の中には、遺伝的な要素がある方もおられます。自分が遺伝性乳がんかどうかを調べるための検査が乳がん、卵巣がん遺伝子検査です。
1.遺伝子検査とは?
遺伝性乳がん、卵巣がん症候群のがんの発症に関与しているBRCA1遺伝子やBRCA2遺伝子に病的異変があるかどうかを調べる遺伝子検査があります。この検査は、BRCA1/2遺伝子検査と呼ばれます。
BRCA1/2遺伝子は、乳がんや卵巣がんが多く見られる家系について調べた研究で、乳がんや卵巣がんの発症と関連している2種類の遺伝子が同定され、それぞれ、BRCA1遺伝子(BRCA1)、 BRCA2遺伝子(BRCA2)と名付けられました。これらの遺伝子のどちらかに、生まれつき病的変異があると、
① 乳がんや卵巣がんを若い年齢で発症するリスクが高い。
② 将来、乳がんを発症するリスク(生涯発症リスク)45~84%
③ 卵巣がんを発症するリスク(生涯発症リスク)11~62%
④ 最初の乳がんを診断されてから10年以内に、もう片方の乳房にがんを発症する割合は、予防的な対応を行わなかった場合、BRCA1遺伝子の変異で43.4%、BRCA2遺伝子の変異で34.6%
⑤ 最初の乳がんを診断されてから10年以内に卵巣がんを発症する割合は、BRCA1遺伝子の変異で12.7%、BRCA2遺伝子の変異で6.8%
⑥ 病的変異のある遺伝子は、親から子へ 1/2 (50%)の確立で受け継がれます。
よって、家族(血縁者)の中に乳がんや卵巣がんを発症した方が複数見られることがあります。
病的変異とは、遺伝子を構成している塩基配列の変化をいいます。遺伝子が変化しても、その働きには影響しないと考えられるものもある一方で、遺伝子の働きが失われて、悪い影響を与えるような変化もあります。悪い影響を与えるような変異は病気の原因になることが多く、病的変異と呼ばれています。
ただし、乳がんや卵巣がんが多く見られる家系であっても、乳がんや卵巣がんを発症した方に必ずBRCA1/BRCA2遺伝子の変異が見つかるわけではありません。最近報告された日本人の遺伝性乳がん・卵巣がんを疑われた方のBRCA1/2遺伝子の変異が検出されたのは約27%(36/135)でした。
BRCA1/2遺伝子検査はだれが受けられるの?
① すでに乳がんあるいは卵巣がんを発症している方で遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の可能性がある場合。
② ご家族(血縁者)の中のどなたかが、BRCA1/2遺伝子検査を受けて、変異が見つかっている場合。
どこで検査できるの?
遺伝子検査は採血だけでできますが、まだ、ごく限られた医療機関でしか検査が受けられません。また、医療保険の適応が認められていません。
2.乳がんについて
乳がんとは乳腺に発生する悪性腫瘍です。最もかかりやすいのは、40~50歳の女性で、次に60歳代、30歳代となっています。
3.どんな人が乳がんになりやすいか?
① 初潮が早い、閉経が遅い。
女性ホルモン「エストロゲン」が関係しています。乳がんの多くはエストロゲンがなければ成長できません。
② 初産年齢が高い。または出産経験がない・授乳経験がない。
出産率の高かった昔は、4人5人と子供を産んでいました。その間月経はないわけですから、エストロゲンにさらされる期間はこの分だけ短くなり、乳がんにかかるリスクも低かったのです。授乳経験のない乳腺は、乳がんにかかりやすいことが知られています。出産しても、乳腺炎や早期の職場復帰などで赤ちゃんに母乳を与えなかった場合も乳がんにかかる頻度が高いといわれています。
③ 閉経後の肥満
閉経して卵巣機能が衰えた後、エストロゲンは脂肪組織にある男性ホルモンが女性ホルモンに変換される形で供給されます。よって、脂肪細胞の多い方ほど確率が高くなります。
④ 家族(特に母・姉妹・娘)に乳がんになった人がいる。
遺伝。(前述)
⑤ 既往症
良性の乳腺疾患の既往。子宮体がん・卵巣がんの既往。乳腺症の一部には乳がんとの関連が指摘されているものもあり、乳腺症の既往のある人は注意が必要です。乳がんでなくてもエストロゲンを原因とする子宮体がんにかかったことがある人は乳がんにかかる確率が高いです。乳がんの経験者が再び乳がんになる確率は、乳がん未経験者の5倍といわれています。
⑥ 閉経後のホルモン補充療法は、更年期障害などの症状改善には役に立ちますが、長期の服用は乳がんの発症リスクを増加させると言われています。
乳がんの発症予防に役立つことが疫学的に検証されている生活習慣に関連して
① 閉経後においては、脂肪やアルコールの摂取量を適切に管理し、適当な運動を心がけ、肥満にならないようにすることが乳がんの発症を減少させる。
② 高齢出産を避け、授乳を積極的に行うことは、乳がんの予防につながる。しかし、個々女性のライフスタイルを制限するものであり、現実的な予防にはつながらない。
③ 乳がん発症リスクを明らかに低下させる飲食物は存在しない。したがって、偏食や過食に気を付けて、バランスの良い食生活を送る。
平成25年8月