- 健康への一歩は病気を知ること
- 投稿者:神代病院 恒吉 俊美
病気と健康の話ということからいつも連想することがあります。
私は、神代病院に勤務する前は、救急医療に携わっていましたが、重症の心筋梗塞や脳梗塞の患者さんが来られるたびに、「これらの疾患は予防できる可能性があるのに。」といつも悔しい気持ちを抱いていました。
重要な会議中に、心筋梗塞で倒れて救急車で搬送された40歳代の男性。
健康診断で高血圧と糖尿病を指摘されていましたが、とくに症状はないから、治療はしていませんでした。仕事も忙しかったので。と言われていました。
また目が覚めたら、脳梗塞で右の手足が動かなくなった50歳代の男性は心房細動(不整脈)が原因でした。以前から脈の乱れには気づいていましたが、ほかに症状がなかったから病院に行かれませんでした。
おまけに健康診断も受けていませんでした。
これらの方は、その後の人生が変わってしまうわけです。
たとえば、元巨人の長嶋監督も、心房細動から脳梗塞を発症しなかったら、王貞治元監督のように、現在ももっと活躍できた可能性があります。
症状がないから、健康だとは限りません。確かに症状がないことは大切です。
しかし「仕事が忙しいので、時間がないので、どうもないので受診しませんでした。」「こんなことになるとは思いませんでした。」と後悔しても、一度発症してしまったら、その後は不自由な生活を強いられます。
メタボリック症候群が提唱された頃は、いち早く高血圧や糖尿病、高コレステロール血症を診断して治療を行うことで、働き盛りの方々の脳血管障害や心筋梗塞を減少させる目的だったはずですが、最近ではインパクトに乏しい感があります。
さて引き続き、予防が大切だという話をします。
食パン1枚には食塩0.8g程度含まれますが、イギリス政府は2000年頃からパンの食塩に目をつけ、パンの業界に少しずつ食塩を減らすことを働きかけました。
本当のところパンの職人は、塩分が多いことはわかっていたそうです。
しかし、実は少しずつ減塩しても消費者はほとんど気がつかなかったそうです。
その成果が実り約10年間で、塩分摂取量は1人あたり約1g減塩できたそうです。
その結果、脳卒中・虚血性心疾患死亡者は、年間約9000人の減少がみられ、医療費は、年間約2300億円削減できたそうです。
言い換えれば、それだけ不幸になる方が減少したということです。
それ以後は、食品に塩分量を記載することで、さらに食品の含有量を表記することで、国民もその内容を気にするようになって、同時に健康を意識するようになったそうです。
日本でも同様の表記がありますが、表記を確認して、減塩などを行動に移している方がいったいどれだけおられるでしょうか?
予防といえば、「応急手当」も悪化を防止する重要な処置です。
応急手当の勉強会で、実技とともによくお話をさせて頂いていることがあります。
「倒れた人を動かすな。」ということです。これは「迷信」だと言って話をしています。
確かに、日本人の食塩摂取量は以前から多かったことは事実です。
戦国時代に「敵に塩を送る」という故事もあるくらいですから塩は昔から必需品だったようです。しかしかなり多くの食塩を1日あたり摂取していたようです。
そのことからすると当然、高血圧の方が多かった可能性があります。
高血圧は脳内出血の誘因となります。高血圧性脳内出血では、急性の意識障害や呼吸障害を来します。また嘔吐も高頻度で見られます。
そのような方の応急処置としては、声をかけて意識障害の程度を確認します。
あごをあげて呼吸をしやすくすることと、体を横に向けることで、嘔吐した食物を喉に詰めることを避けることができます。これを「回復体位」といいます。
「倒れた人を動かすな。」という言い伝えは、脳出血の方を仰向けにしたりすると、嘔吐した際に、吐物を喉に詰めて窒息することで、そのまま亡くなったりするので、そのような言い伝えになったと推測しています。
すばやく声をかけて、意識があるかを確認して、意識がなければ、顎をあげて息をしやすくして、体はやさしく横を向かせることが大切です。
当然のことですが、意識がなく、呼吸も感じられない場合には、すぐに周りの人に助けを呼んで、心肺蘇生術を行うことは言うまでもありません。
また、脳梗塞の場合など、右の手足が動きにくくなった時など、「もう少し様子を見よう。」などと考えられる方もおられます。しかし詰まった脳の血管は、再開通しないと、意識障害や運動麻痺などの症状が残ります。その後の一生が台無しです。
現在では、詰まった血管を4.5時間以内に再開通することで、運動麻痺などの症状が改善することも期待できます。しかしそれは時間が、成否を左右します。
「もう少し様子を見よう。」といった考えも、間違いなのです。「もう少し様子をみても何も変らないことの方がことのほうが多く、さらに悪化する可能性もあります。」
このように、病気に対する関心を持って頂けることが、大切なのです。
通院中の方もご家族も含めて、ご自分の正確な病名を知って頂きたいと思います。
健康はじっとしていても、ついてきてはくれません。病気を知ることが大事なのです。
令和3年6月