- 前立腺肥大症について
- 投稿者:山下泌尿器科医院 冨安 克郎
前立腺のことについて少しお話ししたいと思います。前立腺は、男性だけにある臓器です。働きとしては、精液を作ることです。子孫を残すということに対しては、なくてはならない臓器です。
この前立腺は、50歳代から少しづつ大きくなります。大きくなるというのは、正常前立腺が良性腫瘍に置き換わるというのがわかりやすいかもしれません。その大きくなり方は、個人差はあるものの概ねほぼ全員が大きくなっていきます。長生きすれば長生きするほど少しづつ大きくなっていきます。
体の中の見えない部分の臓器が大きくなったとしてもあまり問題はないような気がしますが、一つ困った問題があります。この前立腺の中を尿を排出する尿道が通っている事と尿をためる膀胱に接していることで、男性の排尿におおきな影響を与えてしまうということです。前立腺が大きくなることでその中を通っている尿道は、圧迫され尿の勢いが弱くなってしまいます。また前立腺が大きくなることで膀胱を圧迫し、尿をためる量が減ってきたり、あまりたまっていないのに尿をしたいという感覚が出てきたりします。その結果、排尿と排尿の間隔が短くなったり、排尿をしている時間が長くなるような現象が起こってきます。夜にトイレに起きるようになったとか自分が尿をしている間に隣の人が二人入れ替わったというお話を聞くような場合は、このようなことが起こっている可能性があります。
歳を取ったら誰でもなるからまあ、我慢しようというお話もよくお聞きします。歳を取ったら誰でもなるというのは、概ね正しいと思います。ただ、我慢しようというのは、間違っています。我慢をすることで尿をためる膀胱に負担がかかり、さらに排尿を悪くし、膀胱の筋肉が長期間の我慢した排尿の影響で元に戻らない状態が起こってきます。多くの人が軽い薬を飲むことによりこの状態を避けることができます。誰でも起こってくることですから、病気と呼んでいいのかどうかわかりませんが、やはりちょっとした助けは、必要ではないでしょうか。
前立腺が大きくなることを日本の平均寿命で考えてみたいと思います。日本の男性の平均寿命は、約100年前の1920年には、42歳前後でした。その後1950年ころに50歳代となり2017年が81歳です。前立腺が大きくなって困っている人の多くは、70代以降です。ですから、100年前には、前立腺が大きくなるまで生きる人は、少なかったため、前立腺が大きくなることで困る人も少なかったのです。人類の歴史は、どこを最初にするかで変わってきますが、30万年とした場合、その中の数十年の歴史しかない病気です。ある意味長生きの証といえるのではないでしょうか。
前立腺が大きくなることによる弊害は、多くの人が、長生きをすると起こってくる現象ですが、そこを少しでも良くしていこうということで、世界の研究者たちが、薬物療法、手術療法を研究し、負担の少ない治療法を開発しています。歳をとったらしょうがないといわずに、医療機関でご相談ください。
令和元年7月