- 医療情報の真贋~かかりつけ医に気軽におたずねください~
- 投稿者:丸山病院 吉村 修一
真贋とはご承知のように「ほんものかにせものか」ということです。
特にこの数年間でその傾向が強いのですが、インターネットの普及とともに誰でも容易にあらゆる情報を得ることができる時代になりました。最近問題になったウィキリークスの情報にも信頼できるものとそうでないものがあるように、健康情報、医療情報についても私たちはその真贋に十分注意しておかなくてはなりません。ネット上の活字、あるいは印刷された活字、もっと言うならば本の形になったものでも、全てが信頼できる情報かというと、そうではありません。
一方、医学は日進月歩で進んでいきますので時代とともに臨床医学の場においても考え方が変わっていくことがあります。最近ではコレステロール値をどれほどコントロールすべきかについて、大半の専門家はコントロールすべきという意見なのですが、そうでないと唱える人も多くなっています。このような場合はいずれエビデンスによって決着が着くと思われます。エビデンスとは証左ということで、臨床医学においては、例えば高血圧をコントロールすべきという理論を確かに裏付けるデータのことです。コレステロールの件についてはいずれ明確な結論が出るはずです。現状では大半の臨床医が唱えているようにコントロールを適正にやるべきだと考えられています。
認知症予防のために脳トレと称して計算訓練を継続的にやる方がいいという考え方がありますが、これについてもまだ明確なエビデンスはないと理解しています。基礎的脳科学を実生活の場にそのまま当てはめ、いろいろなことが説明できるように話す学者もいますが、それも危険です。きわめて基礎的な動物実験等のデータをそのまま人間に適応することも危険なことです。
話は変わります。ゴミの問題では、分別収集が全国ですすめられていますが、分別収集なんてやっても意味がない、という学者がいるのと同じことが臨床医学でも多々あるのです。最近うつ病が増えたとよく言われますが、興味深いことに抗うつ剤の新薬が出ると全国的にうつの発生率が増えるそうです。うつの診断も進歩しています。統計の数字にも、検証が求められる場合もあります。
ばらばらいろんなことをお話ししましたが、要は今正しいと思われていることでも時代が変わるとそうでない場合もあるということ、情報にも信頼すべきものとそうでないものとがあることです。そして、いわゆる民間療法と言われるものや代替医療にもエビデンスが伴っておらず信頼に値しないものが多々あることを知っておくことも大切です。
そう言うならば、「じゃあ何を信じたらいいの」とおっしゃると思いますが、どうぞ「かかりつけ医」と話して欲しいのです。かかりつけ医は皆さんの体のことを病歴も含めて、例えばアレルギー体質や、合わない薬等、よく知っています。コレステロールの話に戻しますと、単純にコレステロールだけが高い場合と糖尿病等何か他に合併症を持っている場合とは全く違います。喫煙の有無によっても判断が変わります。また、値の程度や家族性があるかないかによっても違います。その方にとってどの程度までコレステロール値を改善すべきなのかは、かかりつけ医が一番知っているし知っていなくてはならないことなのです。
最後に、サプリメントがはやっていますが、サプリメントにもエビデンスがあるものないものがあります。また、これが入っていますと表示していてもその濃度や量が全く違う場合があります。食品やサプリメントとの飲み合わせ、例えば葉酸を含むサプリメントと抗がん剤、心房細動を持っている方によく処方される抗凝固剤のワーファリンと納豆、ある種の降圧剤とグレープフルーツ等、一緒にとるとよくないものが食品やサプリメントにもあることも知っておいてください。単純な情報だけでは判断できないことが多いのです。
繰り返しになりますが、気心の知れた「かかりつけ医」に何でも相談することをおすすめします。気心の知れた「かかりつけ医」をはやく見つけてください。テレビでこう言っていたからとか、友人にとってそれが大変効果的であったからとか、チラシに書いてあったからとか、生半可な知識で自己判断すると大変なことになることもあります。そして、どうしてもその先生の説明で納得のいかない時には遠慮なくセカンドオピニオン(別の先生の意見)を聞くことをおすすめします。
《参考文献 》
代替療法の医学的証拠 米国医師会編 泉書房
代替医療のトリック サイモン・シン&エツァート・エルンスト 新潮社
脳トレ神話にだまされるな 高田明和 角川書店
メタボの罠 大櫛陽一 角川SSC新書
お医者さんも戸惑う健康情報を見抜く 小内亨 日経BP社
なぜうつ病の人が増えたのか 冨高辰一郎 幻冬社ルネッサンス
乱造される心の病 クリストファー・レーン 河出書房新社
サプリメントエビデンスブック 久保明 じほう
平成23年1月