- 在宅医療とCVポートについて
- 投稿者:やなぎ医院 院長 柳 純二
当院では開院依頼、約26年間ご自宅や施設での在宅医療を行っています。今回も在宅医療関連のお話をさせて頂きます。
在宅で診ている患者さんの中には、癌末期の方や、神経難病の方、重度の心疾患、呼吸器疾患等の方、重度の認知症の方、高齢で寝たきりの方など様々な疾患をお持ちの患者さんがおられ、ご自身では来院が困難な方に対しては定期的な訪問診療を行っています。中には病状が悪化して徐々に食事が摂れなくなり栄養状態が悪化している方もおられます。そのような時には、患者さん本人やご家族のご意向を尋ねて、経腸栄養法あるいは中心静脈栄養法による栄養補給を検討します。
経腸栄養法では、経鼻胃管や胃瘻を使って1日3回、栄養剤を胃の中に注入します。健常者が1日3回食事をするように消化管を使って栄養補給を行いますので、より自然な形に近いということは言えます。しかし、胃の中に入れた栄養剤が逆流して誤嚥性肺炎の原因となることがあります。また腸閉塞や、消化器機能が落ちてきた場合には経腸栄養法が困難となることもあります。
一方、中心静脈栄養法では、心臓に近い大きな静脈に管を留置して高カロリーの輸液により栄養補給を行います。消化器の状態に影響されず確実な栄養補給が可能で、経腸栄養補給時にときどき見られる下痢、腹痛、不快感などがありません。また血管内のルートが確保されていますので、栄養補給だけでなく、様々な注射薬剤による症状緩和などの処置が容易というメリットもあります。ただし消化管を使わないことによる腸内環境の変化や、腸粘膜の萎縮等のデメリットもあります。
また中心静脈栄養法の大きなデメリットとして、細菌感染の問題があります。以前は管を皮膚の外まで出して、その管に直接高カロリー輸液を繋いでいました。確かに、この方法では皮膚からの細菌感染が避けられず、約2ヶ月で管を入れ替える必要がありました。しかしその後改良が重ねられ、現在は皮下埋込型の「CVポート」という方法で中心静脈栄養を行うことが主流となりました。これは先端を心臓に近い静脈に入れた管の付いた100円硬貨程度の大きさの本体を鎖骨の下などに埋込んでしまう方法で、輸液をしないときには皮下に完全に隠れてしまい、感染のリスクもありません。必要時にはこの本体に針を刺して高カロリー輸液を行います。この埋込型のCVポートの最大のメリットは、これまでの方法に比較して感染症の合併が著明に少なくなった点です。当院での経験では、100歳に近い寝たきりの患者さんで経口摂取が出来なくなり、CVポートからの高カロリー輸液だけで約2年間過ごされた方がおられました。その患者さんは意識もはっきりされて笑顔も見られ、CVポートのお陰でしばらくは良い状態で過ごされて、最期は穏やかに旅立たれました。また癌末期の方でCVポートを使用することも増えてきています。癌末期の方の場合は、CVポートは栄養補給だけでなく、終末期に頻繁にみられる痛み、嘔気、倦怠感など様々な苦痛を緩和するための注射薬剤を使用する際に特に有用です。(CVポートが無い場合には末梢静脈からの点滴や注射を試みますが、末期状態の方は脱水状態でもあり、静脈からのこれらの処置が困難なことが多く、結果としては患者さんを苦しめてしまうことが多いです。)
CVポートを造設するには、小さな外科的手術が必要となります。ここで躊躇される方も多いと思いますが、手術と言ってもとても軽い手術です。繰り返しになりますが、癌末期であれ、他の疾患の終末期であれ、特に在宅医療を行うにあたって、上に述べましたように大変有用な方法であることは間違いありません。このことを終末期の皆様やご家族には是非知って頂きたいと思い、今回ご紹介を致しました。ご参考になれば幸いです。
平成28年5月