- 声を大切に・・・!
- 投稿者:萩尾耳鼻咽喉科医院 院長 萩尾 良文
日常当たり前のように挨拶する、会話に使用する声は①肺からの呼気②呼気による左右の声帯の振動③声の帯振動で生じた音を響かせる共鳴④声を言葉に変える発声の4つの過程が必要となります。特に①から③の過程に問題が生じると「いつもと声が違う」ように感じます。
声を出す主役である声帯はのど仏の真ん中あたりに左右1対あり、成人では約1cmから1,5cmの長さの小さな器官です。この小さな器官で多彩な大きい声や小さい声を作ることが出来るのです。一般に、成人男性では平均1秒間に約100~150回、成人女性では約200~300回ほど声帯が振動していると言われています。たとえば30分会話すると、18万~54万回も振動していることになります。同時に左右の声帯は正中で接触しているわけですから、声の出し方によっては声帯の表面を傷つけたり、関連する筋肉が疲労したりして、声がかすれたり(嗄声)声が出なくなる(失声)ことがあります。声帯の表面は、くず湯のような柔らかい組織で覆われており、左右声帯の接触から衝撃を和らげるように出来ています。良い声を長く保つためには、声帯表面の柔らかな組織を保つことが重要です。そのためには、Ⅰ声帯の適度な保温(乾燥を避ける)Ⅱ禁煙 Ⅲ適切な声の使用が必用です。
具体的にⅠ・Ⅲを説明します。声帯の保温のためには、一日に1.5リットル以上の水分摂取と加湿が必用です。また、喫煙は声帯のためには止めましょう。そして、声を連続して使う場合(カラオケ・おしゃべり・・・)は30分を目安にして下さい。
次は声が変化する疾患を述べたいと思います。
1・しわがれた声・・逆流性食道炎
朝、目覚めたときにこえがしわがれている人がいます。これは胃酸が逆流したことによる炎症が引き起された可能性があります。これを咽喉頭酸逆流症と呼ばれ、逆流性食道炎が引き金になっている可能性があります。
2・鼻声が継続する・・慢性副鼻腔炎
風邪をひくと鼻がつまり、いわゆる鼻声になります。かぜが治って鼻声が改善すれば問題ないのですが長時間継続する場合は、副鼻腔炎の可能性があります。
3・元気のない声、かすれ声・・甲状腺疾患
甲状腺のホルモン分泌が異常を来すと声の変化が現われます。元気のない声は甲状腺機能低下症の時に起こります。声のかすれは、甲状腺がんの時、反回神経麻痺の影響で声がかすれることがあります。
4・抑揚のない声・・パーキンソン疾患
静かな口調で平坦な響きの声は、パーキンソン病の兆候である可能性があります。パーキンソン病は声を操る筋肉が痩せ、自分の声をコントロール出来なくなり平坦なこえのトーンになることが多いと言われています。
5・声がかすれる(嗄声)、むせる(誤嚥)・・声帯腫瘍、縦隔疾患、頭頸部腫瘍
声帯の表面に変化(こえだこ)が出来ると、声がかすれます。普通の喉風邪であれば1週間以内に改善しますが、声帯ポリープや声帯腫瘍が出来ると10日以上嗄声が続きます。
また、声帯を動かす神経を障害されて、片側(主に左)の声帯が動かなくなると気管に唾液や食塊が流れ込み、むせる(誤嚥)ことがあります。この原因の1つとして反回神経麻痺があります。この神経麻痺は甲状腺癌でも出てきましたが左右肺の間、縦隔に疾患があるときにも起こります。代表的な疾患として食道癌、肺がん、大動脈瘤、縦隔腫瘍等です。
このように日頃当たり前の様に使用する声ですが、今まで述べてきたことに心当たりがあるようでしたらかかりつけ医の先生に相談してみましょう。
平成29年5月