- 子どもたちにきれいな空気を
- 投稿者:ときえだクリニック 院長 時枝 啓子
「うちの子はしょっちゅう中耳炎にかかります」
「子どもの鼻水が黄緑色でどろどろで、たくさん詰まっていて、それがなかなかよくなりません」
「咳が出始めるとすぐには止まらず長引きます」
「ずっと風邪を引いてるみたいです」
小児科ではこのような訴えがとても多く聞かれます。そこでその子どもさんの家庭環境を尋ねてみると、
「お父さんが家や車の中でタバコを吸っています」
「両親共にスモーカーです」
「おじいちゃんが換気扇の下で喫煙します」
などなど、タバコを吸う人が周囲にいる子どもが少なくないのが分かります。
もちろん、中耳炎や急性気管支炎、アレルギー性鼻炎、気管支喘息などが、すべて喫煙のせいで起こっている訳ではないでしょうが、きれいな空気を吸っていたらここまで酷くならなかっただろうなあ、と可哀想になるような環境で育っている子どもさんは決して珍しくありません。
タバコの煙には、喫煙する人が吸う煙(主流煙)、タバコの先から立ち上る煙(副流煙)、喫煙者が吐く息の中に含まれる煙(呼出煙)とがあります。
このうち、副流煙と呼出煙を周囲の非喫煙者が吸わされることを「受動喫煙(second-hand smoke)」と言います。
タバコの煙には4000種類以上の化学物質、250種類以上の毒物/発ガン物質が含まれていることをみなさんはご存じでしょうか。
そして、主流煙中よりも副流煙中に多く含まれる物質が、かなりの数に上ることもご存じですか?(例:一酸化炭素は4.7倍、アンモニアは46倍、発ガン物質のニトロソアミンは52倍)
喫煙者本人の健康被害は、ガン・血管障害(脳・心臓など)・呼吸器障害などがありますが、受動喫煙の人たちにも、さまざまな健康被害を生じることが知られるようになってきました。
(例:1日20本以上喫煙する夫を持つ非喫煙者の妻は、非喫煙者の夫を持つ妻の2倍肺ガン死亡率が高い)
受動喫煙による「子ども」の健康被害に限っても、前に述べたような慢性中耳炎、呼吸器感染症(肺炎・気管支炎)、喘息の誘発と悪化や、慢性の呼吸器症状(ゼーゼー・息切れ・咳)、肺機能の低下、赤血球中のヘモグロビンや冠動脈(心臓を養う動脈)への悪影響、乳幼児突然死症候群(SIDS)など、枚挙にいとまがありません。
ベランダで喫煙して家の中に入って赤ちゃんを抱っこするお父さんは、一見子どもに気を遣っているかのように見えますが、実は環境基準濃度上限の10倍もの一酸化炭素を、赤ちゃんに向かって吐きかけています。
あやしているつもりなのに、赤ちゃんはぐずって泣き止まない。それは、きれいな空気を吸わせてあげていないからではないでしょうか?
最近注目されているものに「third-hand smoke」があります。
これは、喫煙によって環境に残存するタバコ煙のことで、具体的には「カーテンに染み付いたアンモニアなどの悪臭や黄ばみ」、「壁紙に染みこんだ揮発性物質そのものや悪臭、ベタベタしたタール」、「床に落ちたタバコの微粒中の有害物質」などを指します。
たとえそこで喫煙していなくても、残存しているタバコの痕跡が健康被害をもたらし得るのです。
タバコは第2、第3の健康被害までも生じさせる猛毒です。成人にとっても喫煙・受動喫煙はもちろん有害ですが、発育途上にある子どもたちにとっては更に有害と言われています。
また、「煙を吸いたくない」と自分で言えない子どもたちに、受動喫煙させることは虐待と同義です。
これからの社会を担っていく子どもたちに健康に成長していってもらうためにも、親はきれいな空気を吸わせるべきではありませんか?
子どものおかれる環境に、もっと目を配りましょう。
私は喫煙する人すべてに禁煙をお勧めしています。
平成21年7月