- 子供はとってもナイーブという話
- 投稿者:くわの眼科医院 院長 篠原 康之
「子供心」をある辞書で探ってみると、「物事の深い意味や人情などを理解できない、子供のこころ」とあります。随分と大人目線の説明です。では、大人はみな物事の深い意味や人情などを理解しているひとばかりでしょうか。誰もが通ってきた子供時代、その時の「子供心」を思い出すのは至難の業ですが、その「子供の心」が傷つくがゆえにおこる目の病気があります。
『心因性視力障害』
ちょっと仰々しい病名です。病気の説明の前に以前経験した一例を紹介します。
10歳、男児。今年の眼科検診で視力不良を指摘され、眼鏡店に行ったところ眼科受診を勧められて当医院を初診。視力は両眼とも0.01矯正不能ですが、本人はあまり視力が悪いことを意識していない。器質的眼科疾患はなく、脳神経外科的な異常も考えにくい。親だけを残して詳しく問診を取り直すと、最近こちらに転居、一年もしないうちに転校ということが判明。スポーツチームに所属、支障なく練習しているとのこと。兄弟、親子でのいさかいもなし。学校でのいじめもなさそうだと。児童本人に聞き直すと、転校で親しくなった級友とすぐに別れなければならなったので悲しかった、また今の級友にはまだ親友と呼べるひとはいないと素直に、意外とあっさりと語りました。
単なる家庭の事情で、親友と離れ離れにならなければならなかったときの悲しみや辛さなど心の痛みは、彼が語る言葉以上の重みがあったことは想像するにかたくありません。しかし親はそのことを深くは感じてはいなかったということです。
ちょっと専門的な説明になりますが、心身症は「心理社会的因子が発症や経過、ないし病像に強く影響している身体疾患、病態」とも定義され、身体症状が視覚障害など眼科的に発現するのが眼心身症です。心因性視力障害は眼心身症の1つで、近年は小児によくみられます。眼科的には、心因性視力障害とは目で見えていても心では見えていない状態と言い換えることができます。診断は器質的疾患を否定し、心因をあきらかにすることです。心因の例としては、いじめ・家族間(兄弟、親子、両親)の不和・両親の離婚あるいは身近な人やペットの不幸ごとなどが考えられます。この病気の治療は、原因となった出来事や置かれている状況からなぜそうなったかを十分理解し、共感することが一番です。心因がはっきりしないため治療が困難なことも多くありますが、いつの間にか治ってしまうこともあります。改善に長引く場合はメンタルクリニックでの治療も必要となります。
本来子供の心は素直でナイーブです。物事の深い意味や人情などを理解している大人こそ子供目線で子供さんをしっかり見守ってあげてほしいものです。
平成30年9月