一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • 末梢性顔面神経麻痺/ベル麻痺
  • 投稿者:ヨシタケ脳神経外科クリニック 院長 吉武 靖博

はじめに
イギリスの解剖学者のチャールズ ベル(1774~1842)の記載により彼の名前が付けられるようになった病気です。発病率は人口10万人に20~30人で片側性顔面神経麻痺が約70%を占め、男女差はなく発症年齢は40歳代にピークがみられます。多くは半年以内に回復しますが、予後不良となる要因は高齢、高血圧、味覚障害、耳介後部痛、顔面筋の完全麻痺などが挙げられます。


病因
ベル麻痺は単純疱疹(単純ヘルペス)にかかった方が多く、単純ヘルペスウイルス1型のDNA検出率は79%です。従ってベル麻痺の多くは、ヘルペスウイルスの再活性化に関連して発症すると考えられています。


病態
顔面神経の障害は、耳介後部の頭蓋骨内にある顔面神経管で神経の浮腫と炎症が起こり、神経の絞扼と虚血を生じ、神経損傷を来すとされています。


症状
麻痺側で眉が上がらない、閉眼ができず白目となる、口角が下がる、水漏れがある、口笛が吹けないなどが特徴的です。また発症数日前から麻痺側の聴覚が過敏となり、舌先の味覚障害やしびれ、耳周囲痛がみられます。


鑑別診断
ラムゼイ-ハント症候群、脳腫瘍、外傷、糖尿病、多発性硬化症、脳幹由来の脳血管障害などが挙げられます。特にラムゼイ-ハント症候群はベル麻痺の次に多い末梢性顔面神経麻痺の原因疾患です。患側の顔面頭部~耳周囲に帯状疱疹を合併し重症化しやすいので早期治療が必要です。


治療
急性期治療として副腎皮質ホルモン(ステロイド)および抗ウイルス薬の使用が推奨されています。

中等症以上の患者:プレドニゾロン1㎎/㎏/日または60mg/日で5~7日間経口投与し7~10日間かけて漸減中止。
軽症~中等症および高齢者:上記の半量投与でよいと考えられます。
抗ウイルス薬はバルトレックスやファムビルを併用しています。


その他の治療
星状神経節ブロック、鍼灸、高圧酸素療法、外科手術(顔面神経管開放)などありますが、副腎皮質ホルモン、抗ウイルス薬投与に勝る根拠は乏しいようです。


リハビリ
血流の改善や顔面のこわばりの改善目的で、自分の手指による顔面筋のマッサージが有効と考えます。健側も同時にゆっくりと円を描くようにマッサージし、強く圧迫しないようにしましょう。また鏡を見て意識的に目や口を動かすことが良いと思われます。


最後に
ベル麻痺は軽症であれば2か月以内に完治する病気です。焦らず治療しましょう。また中等症や重症の場合は初期治療が大切です。症状が疑われた場合は、直ぐにご相談ください。

 

yositake201606

平成28年6月

 

 

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