- 炎症性腸疾患
- 投稿者:田中まさはるクリニック 院長 田中 政治
今回は炎症性腸疾患についてです。
体には免疫系という防御システムがあり細菌やウイルス、異物などが入り込むと追い出そうとします。この時に腫れや痛み、発熱などの症状が現れます。この反応のことが炎症です。
炎症は体にとって不可欠なものですが、過剰に起こると体を傷つけることになります。
この炎症が大腸におこる病気を「炎症性腸疾患」といいます。
炎症性腸疾患のうち、細菌やウイルス、薬剤などはっきりとした原因でおこるものを特異的炎症性腸疾患といい原因がわからない非特異的炎症性腸疾患もあり、潰瘍性大腸炎、クローン病などがあり、これらの病気は指定難病とされています。
まず、潰瘍性大腸炎について説明していきましょう。
潰瘍性大腸炎は、以前はまれな病気とされていましたが、年々増加し続け日本では現在約17万人の患者さんが登録されています。内視鏡による診断法が向上したことや、この病気に対する認知度が向上したこと(安部総理大臣もこの病気です)も関係していると思われますが、食事を含む生活習慣の西洋化の影響も大きいと考えられています。
●潰瘍性大腸炎の診断
内視鏡検査やX線造影検査、病理組織検査などを行います。特に内視鏡検査で大腸の粘膜にびらんや潰瘍がみられることが特徴です。広がり方によって三つに分けられます。
直腸炎型、左側大腸炎型、前大腸炎型です。
発症年齢は、男性では20歳から24歳、女性では高くなっていますが、小児や高齢者に発症することもあります。男女比はありません。
●症状
下痢や血便が認められ、腹痛を伴うこともあります。重症になると発熱、体重減少、貧血など全身の症状となります。
●合併症
激しい炎症が続いたり、炎症が腸管の壁の深くまで進行すると、腸に様々な合併症が起こることがあります。大腸出血、狭窄(腸管の内腔が狭くなること)、穿孔(腸に穴が開くこと)などがあり中毒性巨大結腸といって、強い炎症のために腸の動きが低下し、中にガスや毒素がたまって大腸が膨張し、全身に発熱や頻脈などの中毒症状が現れることがあり多くの場合は緊急手術が必要です。
また、長く経過した潰瘍性大腸炎では癌化するリスクが高くなります。腸管外の合併症としては、関節、皮膚や目の病変などがあります。そのほかにもアフタ性口内炎、肝胆道系障害、結節性紅斑などがあります。
●予後
潰瘍性大腸炎は、寛解(症状が落ち着いているとき)と再燃(症状が悪化している状態)を繰り返しながら慢性の経過をとります。前にも言ったように発病後長期経過すると大腸癌を発症するリスクが高まるため定期的な内視鏡検査が必要です。
最近では、薬の発達により寛解期を長くすることができるようになってきています。
次はクローン病についてです。
クローン病も以前はまれな病気とされていましたが増加し続け日本では約4万人の患者さんが登録されており潰瘍性大腸炎と同じように診断技術や認知度、食生活の影響も大きいとされています。発症年齢は10~20代が多く、男性では20~24歳、女性では15~19歳が最も多く男性が女性より約2倍です。
●診断
潰瘍性大腸炎と同じような方法で診断され、内視鏡で縦方向に走る長い潰瘍(縦走潰瘍)、潰瘍によって囲まれた粘膜が盛り上がって丸い石を敷き詰めたような敷石像、浅い潰瘍や形が整っていない潰瘍(不整形潰瘍)が現れます。
できる場所によって異なる病型があります。主に小腸にできる小腸型、小腸と大腸にできる小腸・大腸型、主に大腸にできる大腸型に分けられ症状と治療法が異なります。特徴としては口から肛門に至るまでどの部分にも起こる可能性があります。
●症状
初期の多いのは下痢と腹痛です。半数以上の患者さんにみられます。さらに血便、体重減少、発熱、肛門の異常(切れ痔や肛門の潰瘍、肛門周囲膿瘍)が現れることもあります。
●合併症
クローン病は浅い粘膜から始まり、深い粘膜と進行するため多くの合併症が起こることがあります。腸管の合併症としては先に述べた狭窄、穿孔以外に瘻孔(腸どうし、あるいは腸と他の臓器や皮膚につながってしまうこと)、膿腫(膿がたまる)まれに大量の出血、大腸・直腸がんがみられます。腸管外としては関節、皮膚や眼の病変などがあります。
●経過と予後
寛解と再燃、増悪を繰り返しますががん以外は命に大きな影響を及ぼす病気ではないと考えられています。しかしながら日常生活には大きな影響があるので定期的な受診と治療が必要です。
以上、潰瘍性大腸炎とクローン病について述べましたが若い人の下痢、腹痛、血便などは放置せず検査を行うことが必要です。やはり早期発見、早期治療がその後の人生に大きくかかわってくるので病院を受診し検査を行いましょう。
平成31年1月