一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • 煙草の怖い話
  • 投稿者:かわち内科循環器科医院 院長 河内 祥温

 喫煙癖は病気です。タバコを吸うのは個人的な嗜好の問題だと言われる方も多いようですが、タバコの煙にはニコチン、CO、タール等の毒物( 実際には約200種類の有害物質 )が含まれており、喫煙が循環器系や呼吸器系の疾患或いは種々の癌の重大なリスクファクターであることは紛れもない事実です。 例えば冠動脈疾患の三大危険因子は、喫煙、高血圧、高コレステロール血症とされていますが、これらの危険因子の無い人と比較して、喫煙者は正常血圧かつコレステロールが正常範囲でも冠動脈疾患の発症のリスクが2倍以上になり、危険因子が三つともあれば8倍以上になると言われています。
ニコチン血管収縮により血圧を上げCO血管内膜を損傷しますタールには発癌性があるとされています。喫煙は害のみあって何ら人体にメリットはありません。それにも拘わらずなぜタバコはやめられないのでしょう。タバコを始めるきっかけは人によって違うでしょうが、一旦吸い出すとたちまちニコチン依存に陥ってしまうのがタバコです( これは麻薬でも同じですが、ニコチンはいくつかの理由から麻薬ではなく毒物に分類されています )ニコチン脳内報酬系と呼ばれる神経系の興奮をひきおこし、ある種の幸福感や満足感を喫煙者にもたらします。この御褒美がほしくて一服してしまうのですが、ニコチンの体内半減期は30分程度と短く、血中濃度が急速に減少するので次から次へタバコを吸い続けたくなるのです。詳しいメカニズムは不明ですが、タバコは吸い始めてから短期間で、あるいは初めて1本吸っただけでも依存症が生じると言われています。一度始めると、身体的依存心理的依存からなかなかタバコをやめるのは難しいようです。 

しかしながら、喫煙を続けると循環器領域では虚血性心疾患( 狭心症、心筋梗塞 )、不整脈、脳血管障害、高血圧、大動脈瘤、末梢血管疾患( 閉塞性動脈硬化症、バージャー病 )、糖尿病性微小血管病変、等の発症、増悪をきたし、呼吸器関連では肺癌、慢性閉塞性肺疾患( 肺気腫、慢性気管支炎 )、気管支喘息、細菌やウイルスへの易感染性、間質性肺疾患、等の発生が高まります。
また喫煙は代表的な肺癌を筆頭に全身のさまざまな組織の癌( 喉頭癌、口腔・咽頭癌、食道癌、胃癌、膀胱癌、腎盂・尿管癌、膵癌など )の発生率を高めることが知られています。タバコの煙の中には、ベンツピレンやニトロソアミン等の発癌物質が多く含まれており、これらが生体のDNAを損傷し、癌遺伝子の活性化癌抑制遺伝子の不活性化を介して発癌にいたると考えられています。
それなら煙が出なければ良いのだろうとの発想でガムタバコが発売されましたが、これとて、一種の噛みタバコであり、噛みタバコは口腔癌などのリスクファクターであることが世界各国で実証されています。

我が国は先進国の中でも喫煙率が高い方の国ですが、近年禁煙運動の高まりで喫煙者数は徐々に減ってきています。遅れていた我が国の医療界でも漸く意識が高まり、多くの学会が禁煙宣言を出すなどして、タバコを吸う医師は激減していますが、それでも、2004年の調査では男性医師の15%、女性医師の5%が常習的喫煙者でした。もちろん現在はこれより大きく減っていると思われます。2009年の一般的喫煙率は男性39%、女性12%であり、男性はピーク時(1966年)の84%からみるとかなり減っています。一方、女性の全年齢での喫煙率は横ばい状態ですが、40歳以上では減少しているのに30歳代、20歳代と年齢層が下がるほど、喫煙率が増加しています。

ここで問題なのは妊娠中の女性の喫煙率も上昇していることです。そもそも女性の喫煙は妊娠能力を低下させますが、妊娠しても流産、早産などの可能性が高まり、また、低出生体重児の出生率が2倍になるとの報告があります。先天異常の頻度も増えると言われています。
タバコを吸うと煙がでます。周りにいる非喫煙者もその煙を吸うことがあります。これを受動喫煙と言いますが、昨年厚労省から年間6,800人がこの受動喫煙によると考えられる肺癌心疾患で死亡するという推計が出されました。これは交通事故による年間死亡者数よりも多い数です。因みに能動喫煙が原因と考えられる死亡者数は2005年に男性163,000人、女性33,000人と推計されています。
どうやら喫煙は人にも、社会にとっても好ましいものではないようです。せっかく大航海時代に世界中に広がり、地域ごとにさまざまな方法で楽しまれてきた風習ではありますが、健康第一の世界では淘汰される運命にあるのでしょう。

平成23年2月

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