- 病気と自動車運転とリハビリ
- 投稿者:神代病院リハビリテーションセンター 担当医 伊藤 博明
意識消失発作を起こした運転者が歩行者を死傷させた交通事故があったことは、皆様記憶に新しいと思います。今までも病気、特に意識消失発作を起こした方は、自動車運転免許証を取得する時や免許証の更新時に病気の申告をする義務がありました。しかし無申告でも罰則がなかったので、ほとんどの方が何も書かないで更新されていたと思われます。
今回(平成25年6月)道路交通法の一部改定があり、下記の病気・病態があれば必ず申告しないと罰則がつくようになり、それが今年(平成26年)6月から施行されます。無申告の罰則は罰金または懲役だそうです。
申告の必要な病気・病態を記します。
1.てんかん
2.再発性の失神(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、一過性脳虚血発作、脳神経性や不整脈を原因とする意識消失発作を起こしたことがある)
3.無自覚性低血糖症(糖尿病を治療中の方)
4.重度の眠気を呈する睡眠時無呼吸症候群(睡眠障害がある)
5.認知、予測、集中力、持久力、判断または操作のいずれかの能力が劣る症状を呈する病気(高次脳機能障害など)
6.そううつ病
7.総合失調症
などですが、軽快して今はなんともないと思っていても、病名がついていなくても意識を失ったことがある、身体がけいれんしたことがある、麻痺したことがある、日中に眠り込んでしまう、また医師から運転を控えるように言われた。などの症状があった方は申告が必要です。
高齢者の場合70~74歳は免許証更新の前にあらかじめ高齢者講習を受けなければなりませんが、その時運転の適性検査もあります。75歳以上は講習予備検査(認知機能検査が含まれる)があります。上記の疾患に罹患した方は運転免許センターで運転適性相談を受けなければなりません。身体状況及び精神状況については医学的見地からの判断が必要であるため、主治医の診断書が必要となります。しかし主治医も診断書を書かれるのは躊躇されると思います。なにを根拠にするか?
脳梗塞の片麻痺は右麻痺であればアクセルペダルを左側に移して運転は可能です。問題は高次脳機能障害が残った方の場合です。判断力、集中力、予測能力の低下や認知機能の低下があったり、特に問題なのは半側空間無視がある方など事故を起こす可能性が高く、運転はしないがベターと思われます。認知症で自分が認知機能が落ちていると思わないので、運転をする方があります。高速道路を逆行される事故を新聞で時折見ますが、認知症のある患者さんの特徴は迷子になることです。自分の行く方向が分らず、逆行運転をして事故を起こす例がしばしば見られます。運転をしないほうが望ましいのは認知症、半側空間無視の他にもいろいろあります。
自動車運転再開とリハビリテーションに関する研究会が昨年出来て、病気で運転が出来なくなった方が運転は可能かどうかを、どのような検査で調べるかの研究が始まっています。
現在までの研究では道路交通法施行例による、精神疾患、睡眠障害、再発性失神、低血糖症などが上がっています。机上試験での神経心理学的検査とコンピューターを使用したドライビングシミュレーターでテストを行い,出来ない部分はシミュレーターで練習を繰り返す方法が良いのではと、今取り組み始めたところです。
麻痺や歩行障害がある病気になると車は移動に必須と言う方が多いので、出来るだけ期待に添えるよう、運転再開がゴーになるよう私どもリハビリのチームは昨年から取り組んでいます。どういう状態の方は運転しないが良い、しても良いの例を積み重ねているところです。診断書の作成や運転が可能になるようにリハビリの研究と実践が役立てば幸いです。
平成26年5月