- 目は心の窓
- 投稿者:くわの眼科 院長 篠原 康之
人間の感覚情報の80%以上は目から入ってくるといわれています。
一方、目は心の窓(目は心の鏡)、目力(めぢから)という語句があるように、目はまた人間の情報発信の道具でもあるようです。
小学生を中心にみられる心因性視力障害は主に人間関係からくるストレスや心の病の表れであるし、更年期の女性が訴える視力障害も精神的、心理的要素が大きいと考えられます。目に何ら異常がなく、目が見えない、視力が落ちた、目が変といった訴えを持つ患者さんを目の当たりにすると、このような目星を付けて心理的カウンセリングをすることが多々あります。短い診察時間内で心を開かせるのは容易ではありませんが、こちらも相手の表情に目配りしながらじっくり聞いてあげると、プライベートなことを意外と細かなことまで話してくれるようになります。
子供の心因性視力障害は親子や兄弟の家庭内問題や学校の教師やクラスメートとの関係のこじれだったり、家族のように飼っていたペットが死んだショックが原因ということさえあります。学校でのいじめが絡んでいそうなときは少々やっかいです。まず真相を聞きだすことが困難で、真相が分ったとしても解決策が複雑なことが多いからです。その場合は両親、学校の担任などを交えて真摯に対応する必要があります。でも原因が取り除かれたときは嘘のように視力が回復することがほとんどです。
更年期の女性は多彩な症状を訴えることが特徴のように思います。目がかすむ、目の周りが痛むなど眼科的なものは勿論、頭痛、耳鳴り、めまい、ふらつき、胃腸症状、肩こり、腰痛、手足のしびれ、不眠などのためにすでに他の多くの診療科を受診していることが多々あります。しかし脳外科、耳鼻咽喉科、歯科、整形外科、内科、外科などで特に異常はないと言われたことに、またぼやきがはいるわけです。「どうして私の気持ちをわかってくれないの?」と目で訴えているかのようです。このような時こそ時間がかかるのを厭わず、「うんうん」と頷きながらじっくり話を聞いたうえで詳しく説明すると、患者さんは「目から鱗が落ちた」ような気持ちで安心して帰っていかれる、嘘のような本当の話です。
昨今うつ病など精神を病んでいる人が増えているような気がします。心身症を含めると心療内科に通院している方は相当の数になると思います。今回の症例を含め、患者さんがちょっとした何か心の問題を抱えていそうなとき、目は口ほどに物を言う、のです。私たち専門の医師でなくとも、親身になって話を聞く努力が必要であることを痛切に感じています。
平成23年11月