一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

丸山病院 吉村 修一

  • 睡眠障害、特に睡眠時無呼吸症候群について
  • 投稿者:丸山病院 吉村 修一

 本人が気づいていないか、気づいていても放置しているもので案外多いのが睡眠障害です。睡眠障害と言ってもいろいろな種類があります。例えば「眠れない。」と訴えても、寝つきが悪い入眠障害なのか、夜中寝ている途中で起きてしまう中途覚醒なのか、あるいは、明け方前に目が覚め、その後眠れない早朝覚醒かなどいろいろなのです。また、昼間に眠くてしょうがないという場合もあります。目覚めの原因も様々で、夜間の排尿回数が多い夜間頻尿のために起きなくてならない方もあります。寝室の環境も影響を与えます。
「眠れない。」あるいは「昼間猛烈に眠たい。」を感じたら一度医師の診察をお受けになる事をお進めします。その場合、寝つきが悪いのか、朝何時頃目が覚めるのか、中途で何回位目が覚めるのか、家族から見てどうなのか、そして、仕事の状況など医師に詳しく話してください。これを問診と言いますが、睡眠障害の場合多くは正確な問診で診断を絞り込む事が出来るからです。

さて、睡眠障害の中で今回は睡眠時無呼吸症候群についてお話しします
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは、この病気の診断の基準として、一晩の睡眠中に10秒以上続く無呼吸が30回以上、または1時間に平均5回以上認められ、かつその一部は脳波上覚醒している睡眠時にも認める場合を睡眠時無呼吸症候群と言います。ただ、あくまでこれは保険診療上の診断基準です。これに当てはまらなくても境界領域の方がたくさんいらっしゃるはずです。
本人が気づくもっとも多い症状は昼間の眠気や居眠りです。それもかなり強い程度の自覚があり受診される事が多いようです。
 人間の睡眠は大きくレム睡眠とノンレム睡眠に分けられます。睡眠中で眠りが浅い時、大脳の活動が起きている状態に近い時のことをレム睡眠と言います。深い眠りについている時間をノンレム睡眠と言います。おもしろいことに、入眠してから最初のレム睡眠まで90~120分かかるのが一般的ですが、健康な人は夜眠っている時にレム睡眠とノンレム睡眠を約90分周期で繰り返します。そのため入眠してからの適性睡眠時間を90分の整数倍と言う学者もいます。レムとは「Rapid Eye Movement :REM」のことです。浅い眠りでまぶたは閉じていてもキョロキョロと眼球運動が活発な状態です。体の骨格筋は弛緩状態ですが脳は起きている状態に近く、つまり「体は眠っているのに脳は起きている」と言っても良いのです。夢を見るのはたいていこのレム睡眠のときが多く、ちなみに睡眠中に夢を見ながら暴力など異常行動が出る「レム睡眠行動障害」(RBD)という病気があります。幸いに久留米大学精神科の内村先生はこのRBDをはじめ睡眠に関しての日本を代表する医師です。

睡眠時無呼吸症候群は睡眠中に断続的に無呼吸を繰り返し、その結果、日中傾眠などの種々の症状を呈する疾患を総称したものです。

○原因
一番多いのが肥満です。平成20年度から始まる特定健診特定保健指導でも内臓脂肪が多い方は減らすことで生活習慣病を予防する、国をあげての疾病予防事業が開始されますが、この睡眠時無呼吸症候群の原因の多くも肥満です。肥満や老化によってのどの所の空気の通り道が狭くなり、睡眠によって喉の奥の筋肉の緊張が低下する事などにより、さらに狭くなり睡眠時の呼吸に支障をきたすのです。このような型を閉塞型睡眠時無呼吸症候群と分類しています。これとは別に呼吸の指令を出す脳の障害によるものを中枢形睡眠時無呼吸症候群と呼びます。一般的には閉塞型です。

○どんな方が注意すべきか
睡眠中に常態的に大きないびきをかき、家族が数秒以上呼吸が止まって、その後大きな呼吸をするようなことに気付く場合は要注意です。口呼吸も要注意です。ご家族がいらっしゃらない場合は2時間程度のテープレコーダーにいびき音を録音してみるのもよいかもしれません。呼吸停止の時間が長く、回数が多いほど危険です。ひどくなると軽い痙攣を呈する事もあります。こうなったらもちろんすぐに治療です。睡眠時無呼吸症候群は寝ているときの状況ですからご家族からの指摘による発見が多いのが特徴です。また、朝目が覚めた時に頭痛、口呼吸のための口内や喉の乾燥感、朝の爽快さを感じなくなります。仕事をしている昼間や運転中、どうしようもない眠たさが毎日のように出る時は赤信号と思ってください。運転中の事故につながる場合もありますので「昼間どうしようもなく眠たい」という訴えで受診されることをおすすめします。

睡眠時無呼吸症候群は単に睡眠が不足するだけではありません。睡眠は人間が健康に生きていくために極めて必要な時間です。睡眠中に私たちは心身を休めると同時に生体内ではいろいろな機能が働く事で明日に備えているのです。睡眠障害はいろいろな合併症をもたらします。睡眠時無呼吸症候群では特に高血圧や心臓病(狭心症、心筋梗塞、不整脈)などの合併症の大きな促進因子となります。また、肥満をもたらしますのでどこかできちんと治療をして悪循環を断たなくてはなりません。

○治療
治療は睡眠障害の原因をまず一つ一つ除外していくことから始まります。典型的な睡眠時無呼吸症候群の場合はCPAPという呼吸補助機を用いると劇的に改善します。ともかく、原因をきちんとさせることが治療に直結します。

以下はエップワース睡眠尺度(Epworth Sleepiness Score)による自己チェック表です。一度試してみてください。できれば40歳以上の方、それ以下でも肥満の方がいらっしゃったら自己チェックをおすすめください。

○昼間眠気チェック
0 : 決して眠くならない
1 : 時に眠くなる
2 : 1と3の中間
3 : 眠くなることが多い

眠くなる状況
眠気の4段階
座って読書をしている時
テレビを見ている時
公の場所で座って何もしていない時
1時間以上続けて車に乗せてもらっている時
午後に横になって休息する時
座って誰かと話をしている時
昼食後、静かにしている時
車中で交通渋滞で2~3分止まっている時

10点以下:正常  11点:軽症  13点:中等症  16点:重症

11点以上であれば眠気が強いと判断されます。症状に思い当たる方や眠気度の強い方は減量、禁煙、過度の飲酒をやめることが基本です。横向きに枕を高くして寝るといびきを減らす効果があります。また、睡眠薬は症状を悪化させることもありますので、必ず医師にご相談ください。
これらの方法で改善されない場合は一度内科あるいは耳鼻科に診ていただくことをおすすめします。

繰り返しますが、睡眠は食事、運動、呼吸、排泄などとともに生きるための基本的なものです。毎日呼吸をしている私たちは酸素を吸って二酸化炭素を出していることすらほとんど自覚していません。ところが、もし酸素がないと生命体としての私たちは数分間しか生きることができません。睡眠も同じ事です。毎日当たり前のように眠っていますがよい睡眠が取れているかどうかを時々チェックする必要があります。十分な睡眠による爽やかな目覚めが健康作りにとってもっとも重要なことです。

平成20年2月

PAGE TOP