- 肥満と消化器疾患
- 投稿者:RINDENクリニック 院長 林田 啓介
「肥満」とは「脂肪組織の蓄積した状態」を指します。肥満の程度はBMI(Body Mass Index:体重[kg]/身長[m]2)で表され、世界的にはBMI30(例:170cm、86.7kg)以上で肥満と定義付けられています。日本人は欧米人と比べて、軽症肥満でも糖尿病や高血圧などの肥満に伴う健康障害を起こしやすいため、肥満の定義は厳しくなり、BMI25(例:170cm、72.3kg)以上となっています。
これは日本人においては軽い肥満であっても、著しい肥満状態の欧米人と同じ程度の肥満症におちいることを表します。肥満者の増加と生活習慣病の頻度の増加はよく相関しています。
肥満のなかでも疾病と関係が深いのが、腹膜の脂肪(内臓脂肪)が異常に増加する「内臓肥満」です。内臓肥満は、高血圧、糖尿病などのいわゆる生活習慣病の発症リスクを高めることが知られています。近年「メタボリック症候群」という概念が、健康診断に取り入れられたのも、内臓肥満の早期発見・治療が重要と考えられているからです。腹囲の大きい(内臓脂肪の溜まっている)人では、血圧、血糖値、血清脂質それぞれの値が基準範囲内であっても、心血管疾患のリスクが高くなることがわかっているからです。つまり内臓脂肪の多い人は、これらのわずかな異常が複合してリスクを高めるため、総合的な取り組みが必要です。
内臓脂肪は、高血圧、糖尿病、脂質異常症、心血管障害などのいわゆる生活習慣病のほかに、さまざまな消化器疾患にも深く関わっていることがわかっています。最も有名なのが脂肪肝(非アルコール性)ですが、このなかには脂肪性肝炎のように肝硬変や肝癌に進展する怖い病態もあります。また逆流性食道炎、胆石症なども肥満と関わりの強い疾患です。大腸ポリープや大腸がん、膵臓がんも肥満によるリスクが高くなることが知られています。
肥満と消化器疾患のリスク
肥満から連想される消化器疾患の代表は脂肪肝です。肥満・脂肪肝の原因の代表は飲酒によるアルコール性脂肪肝です。
また、最近では飲酒によらない肥満を伴う脂肪肝をアルコール性と区別して、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD:non-alcoholic fatty liver disease)と呼び、この中には肝硬変・肝臓がんへと進行していく、よりたちの悪い非アルコール性脂肪肝炎(NASH:non-alcoholic steatohepatitis)という病気が含まれています。
「飽食」の日本においてNAFLDの頻度も増加しており、健診で脂肪肝を指摘された場合は定期的な検査を行ったほうがよいでしょう。
また小児肥満の増加に伴い、中学生の5%、小学生の2~3%がNAFLDであったとの報告もあり、子供の食生活にも注意が必要です。
肥満による消化器がんリスクの上昇(米国)
女 性
|
消化器がん |
男 性 |
2.6倍 |
食道がん |
1.9倍 |
- |
胃がん |
1.9倍 |
2.6倍 |
肝臓がん |
4.5倍 |
2.6倍 |
胆嚢がん |
1.8倍 |
2.6倍 |
膵臓がん |
2.6倍 |
2.6倍 |
大腸がん |
1.8倍 |
参考資料
消化器病学会編:肥満と消化器疾患ガイド
平成24年9月