- 胸やけの話
- 投稿者:古川医院 古川 和宏
「胸やけ」という症状を具体的に表現すると、みぞおちから胸にかけて広がる熱い感じ、あるいはノドまで酸っぱいものが上がり、口にも苦い不快感を自覚するといったところでしょうか。
決してまれなものではなく、恐らく多くの人に経験があるのではないかとおもいます。このような症状もたまにであれば良いのですが、頻繁に起こって日常生活の妨げになってしまうのでは困ります。
胸やけは、加齢などによる食道、胃の形態的な変化や機能低下、肥満や持続的な腹部の圧迫から生じる腹圧の上昇などにより、胃酸を中心とした胃の内容物が食道へ逆流し、長い時間そこに止まることで生じる粘膜への刺激や傷害が主な原因と考えられ、このような病状は胃食道逆流症と呼ばれています。
実際に「胸やけ」を訴えられる患者さんに内視鏡検査を行ってみると、食道下部にびらんや潰瘍ができていることが時々見うけられます。骨粗鬆症などで腰が曲がり、腹部がいつも圧迫されているような方では、このような病変が重篤でなかなか治らないことも経験されます。重症例では、食道粘膜の傷害が吐血や貧血の原因になったり、潰瘍を繰り返しているうちに食道が狭窄し通過障害を起こしてくることさえあります。また繰り返す炎症により食道の粘膜が変性し、食道癌の誘因になりえることも指摘されています。
しかし実際には、胸やけの訴えで内視鏡検査を行ってみても、食道粘膜には何の異常も認められないことのほうが多いようです。このような場合でも、やはり胃酸逆流が症状を引き起こしている可能性が高く、粘膜傷害はなくても過剰な酸の逆流があったり、僅かな逆流であっても食道粘膜が過敏なために症状が発現していると考えられています。さらには少数ながら酸の逆流と明確な関係を見いだせないものもあり、これらは機能性胸やけとも表現され、酸の逆流以外の機序がいろいろと検討されています。
胃酸の逆流により引き起こされる胸やけ以外の症状として、ノドの違和感やしつこい咳、気管支喘息、繰り返す呼吸器の感染症、さらには中耳炎、副鼻腔炎、狭心症様の胸痛や虫歯といったものがあり、胃食道逆流症の治療を行うと、これらの症状に改善が見られることがあります。
それではこの嫌な胸やけを軽くするために、日常生活ではどのようなことに注意すればよいのでしょうか?
食事は腹八分で過食を避けるようにしましょう。食後はすぐ横にならないようにして、就寝前の食事は避けます。
食事の内容は食道粘膜や胃粘膜に直接刺激をあたえるようなもの、高脂肪のものはできるだけ控えましょう。飲酒や喫煙も症状を悪化させる可能性があります。
過度の腹圧上昇を引き起こすような動作、作業もよくありません。重いものを持ち上げたり、草取りのような前屈みで常に腹部が圧迫されるような作業がそれにあたります。特に食後の満腹時には避けるようにしましょう。帯、ベルト、ガードル、コルセットなどで腹部を強く圧迫しないといったことも大切です。
就寝時の姿勢では右側臥位の方が左側臥位よりも酸の逆流を強く引き起こす可能性があります。またベッドの頭部を上げ上半身を上げることで睡眠時の酸の逆流は軽減します。
しかしこのような方法だけではなかなか症状が落ち着かないことも現実です。そのようなときは制酸剤を服用することにより、かなりのケースで症状の改善が期待できます。希ではありますが、薬剤のみで十分な改善が見られない重症例の場合は、腹腔鏡や内視鏡下の手術が行われることもあります。
胃食道逆流症は恐ろしい病気ではありませんし、治療も比較的簡単です。しかし症状が続く場合は、それが単に胃酸による症状なのか、背後にもっと重大な病気が隠れてはいないのか、一度内視鏡による検査を受けられることをお勧めします。
平成19年11月