- 過活動膀胱のはなし
- 投稿者:福山泌尿器科医院 田上 英毅
皆さんは、次のような” 排尿に関わる症状をお持ちでしょうか?
”トイレにいきたくなると我慢ができない” → 「尿意切迫感」
”トイレが近い” → 「頻尿」
”トイレが間に合わずに漏らしてしまう” → 「切迫性尿失禁」
こうした症状の方々は、「過活動膀胱」という病名で診断されます。すでにこの言葉を見たり聞いたり、かかりつけの先生からお薬をいただいたりしている方々も少なくないことと思います。
過活動膀胱の患者さんでは、まず尿意切迫感がみられます。これに、頻尿および夜間頻尿を伴うことや、場合によって切迫性尿失禁を伴うことがあります。
治療には、薬が中心に使われます。早めの効果を期待することができ、重大な副作用も少なく安全です。
しかし、のどの渇き・便秘・尿が出にくくなる、などの症状が出てくることがあり、飲み続けるのが難しい場合があります。また、期待したほどの治療効果が得られず、薬を続けていきたいとする患者さんは以外に多くない、との報告もあります。
過活動膀胱は、症状に基づいて診断されます。しかし、その原因となる病気は一つではなく、様々なものがあります。そして、それらの病気は慢性的であったり、完全に治すことが難しかったりするものも少なくありません。また、ややこしい話なのですが、過活動膀胱と同じような症状を引き起こす病気が幾つもあります。
患者さんとしては、”すっきり”、”完全に”治したいという期待あるわけで、その想いは当然のことと思います。しかし、まずは治療可能な範囲を見極める必要があります。担当の先生とよく相談したうえで、現実的な目標を立てていくと、ある程度納得のいく治療効果が得られることと思います。
治療には、患者さん自身で取り組める行動療法という選択肢もあります。効果を挙げるには、早くても2~3カ月ほどは掛かるでしょう。しかし、身体への負担が少なく安全で、お金を掛けずに取り組むことが出来るという利点があります。以下、簡単に方法を紹介します。
Ⅰ.生活指導
A.適正な水分摂取量の把握と指導
皆さんは、一日にどのくらいの水分を摂っているでしょうか?一日の尿量を目安に、水分を摂り過ぎていないかどうかを確認してみましょう。
一回ごとの尿量を測るために、容器が必要となります。医療現場では尿瓶(しびん)が 使われていますが、100円均一店などで置いてある200~300mL以上の計量カップや、紙コップに簡単に目盛りをつけたもので代用しても構いません。排尿した時間と尿量を2~3日間記録していただくと、御自身だけでなく他の人にとっても、ふだんの排尿の様子がよくわかります。最初は少々面倒かもしれませんが、ぜひ取り組んでみることをお勧めします。
一日の尿量が、体重 1kg当たり 40ml以上、または 2000~2500ml以上なら、多すぎるかもしれません。
もしもこれらの目安を上回っているようならば、以下のことを心掛けるようにしてみてください。
・ 体重1kg当たり20~25mL以内となるように、一日の水分摂取量を調節する。
・ 飲水だけでなく、食物からの水分量も確認する(生野菜・果物・汁物など)。
一日3度の食事では、おおよそ800~1000mLの水分が含まれます。ほかに、食物の栄養素が体内で代謝されるときに300mLほど水分が生じます。したがって、飲む水分として最低800~1200mL程度が必要となる計算になります。
B.食生活指導
糖分や塩分を多く摂っていないかどうか、確認してみてください(外食や既製品を食べる機会が多くないか? 家庭での味付けが濃くなっていないか?)。喉の渇きを潤すために水分を摂りすぎていないかどうか、確認をしてみてください。
C.排尿工夫の指導
外出時には、前もってトイレの場所を確認しておき、排尿時間に応じた移動を想定してみましょう。また、衣類はなるべくすぐに排尿体勢に入れるよう、着脱しやすい衣類にしておくと良いでしょう。
Ⅱ.膀胱訓練
① 尿意を感じたら、5分間我慢する。
② 5分間我慢できるようになったら、次は10分間我慢する。
③ 10分間我慢できるようになったら、さらに15分間 → 30分間 → 60分間と、出来る範囲で少しずつ排尿間隔を延ばしていく。
60分間我慢できると、かなり“改善した”と感じることが出来るでしょう。
Ⅲ.骨盤底筋訓練
① 肛門部に意識を集中して、肛門や膣・尿の出口辺りを10秒くらい“キュー”っと締める。
② 締めていた部分を緩めて、10~20秒くらい休む。
③ ① ⇔ ②を繰り返す。目標は、一日50回程度。一度にやらず、何回かに分けても良い。毎日、少しずつ続けていく。
④ 姿勢は、仰向けなら膝を立てて。座った姿勢や、四つん這い、机に手をついてもたれた姿勢でも構いません。
これらの方法は、もちろん薬の治療と組み合わせることも出来ます。完全に治すことが難しくても、自分の病気のことを理解して、症状を調節していけることは、安心感にも繋がることと思います。
排尿の悩みは身近なことでありながら、”恥ずかしい”が故に、相談しにくい内容も多いと思います。しかし、そのことでやりたいことが妨げられたり、問題を抱えてしまったりすることで日常生活の質が低下してしまうようなことになれば、その方にとって大きな損失となりかねません。わからないことや排尿のことで困っているようでしたら、掛かりつけの先生や泌尿器科医に相談してみては如何でしょうか?まずは、お話だけでも構いません。身近な排尿の悩みと上手に付き合って、みなさんが快適な生活を送れることを願っています。
平成29年5月