- 食生活習慣と胃・大腸がんの予防
- 投稿者:RINDENクリニック 院長 林田 啓介
日本は世界の長寿国となり、高齢化や生活環境の変化から、日本人の死因の1位を癌が占めるようになりました。最近では王監督が胃癌で手術されましたが、がんは身近なところで起こっています。
ところで1年間に何人が癌と診断されるか、2000年の統計から人口10万人あたりの 日本人の罹患率(男499.3人、352.1人)を小郡市の人口(58150人)で見ますと、男性290.3人、女性204.7人と約500人が癌にかかることになります。
部位別にみた罹患率では男性:胃がん・大腸がん・肺がん・肝がん、女性:大腸がん・乳がん・子宮がん・肺がんの順です。
がんの発生には本人が生まれつき持っている宿主因子と環境因子や生活習慣(食事・飲酒・喫煙など)が関与しています。肺癌が喫煙と関係ある事は周知のとおりです、またアルコールと喫煙は口腔・咽頭・食道・肝臓などの癌の危険因子と言われています。
胃や大腸がんはアメリカへ移民した日系人の罹患率の違いから食生活の変化が重要な役割を果たしていると考えられてきました。
胃癌は年々減少傾向にありますが、それでも日本人の罹患率はまだ高くみられます。食生活習慣の原因として高食塩摂取量が関係あるといわれており、とくに食塩10g/日以上は要注意です。しかし、食塩だけでは発ガンの因子はなく、食塩を摂取することにより、胃粘膜が傷害され発癌物質の影響を受けやすくなることが原因と考えられます。
最近はヘリコバクタピロリ(ピロリ菌)の感染が胃癌の危険因子と言われていますが、九州大学の調査ではピロリ菌感染と萎縮性胃炎のある方で、塩分摂取が多いと胃がんのリスクが高くなるという結果が出ています。
また、空腹時血糖も胃癌の危険因子で、ピロリ菌に感染して空腹時血糖が高い人は、血糖が低い人に比べて胃癌のリスクが高いようです。欧米では肥満と胃噴門部癌の関連も言われています。(注:ピロリ菌は40歳以上の日本人の80%に感染していると言われます、ピロリ菌感染の人が全て胃癌になるわけではありません)
予防には、果物や野菜の摂取が胃癌のリスクを抑制するようです。含まれるビタミンC・E、ベータカロチンなどによる抗酸化作用が考えられます。また、ビタミン・ミネラル製剤のサプリメントによる癌の抑制効果も調査されているようですが、まだ明確な結論はでていません(注:サプリメントの中にはとりすぎて異常をきたすものもあり、注意がひつようです)。緑茶と胃癌の関係も明確な関連は不明ですが、動物実験では緑茶のカテキンに抑制効果があるようです、しかし疫学的調査では一致した見解は出ていません。
大腸癌は近年増加傾向にある癌のひとつです。
食生活で肉・脂肪・卵などの摂取増加(欧米型の食生活への変化)と大腸がんの死亡率の推移と相関していること、過栄養による脂肪の蓄積(BMIが30以上では大腸がんのリスクが高くなるとの報告があります)、赤身の肉、ソーセージなどの加工食品との関連は以前から言われてきました。そして、魚の油は逆に癌発生を抑制するとされます。
脂肪摂取量は大腸・乳腺・前立腺の癌発生との強い関連が言われています。
また、大腸がんはアルコールとの関連も言われており、毎日飲酒する人と飲まない人とでは飲酒群でリスクが高いようです。飲酒によるビタミン不足・アルコールが分解されてできるアセトアルデヒドが関わっているようです。セレン(ビタミンEなどと協力して、血液の流れを改善したりする:大豆・いわし)や葉酸(動脈硬化の予防・貧血に効果:大豆・ほうれん草)・カルシウム・ビタミンD・食物繊維などは予防因子と言われていますが明確データはでていません。胃・大腸がんと食生活習慣とのかかわりを述べましたが、以前から言われていた、胃癌と塩分の取りすぎ、大腸がんと脂肪の取りすぎは明らかです。加えて、アルコールや喫煙などが危険因子です。
予防の基本は…毎日の適度な運動、タバコ・アルコールを控え(日本酒で1合以下)、塩分・脂肪分、食べ過ぎに注意して、果物・野菜や魚を含めたバランスよい食事を取りましょう・・・といった一般的な注意になってしまします。
生活習慣病(高血圧・高脂血症・糖尿病など)の予防も含め、10年・20年後の自分の健康状態を思い描いて、今から生活習慣の改善に取り掛かることが大切です。
WHOは食生活の改善で癌を1/3に減少できると予測しています。
野菜や果物を1日400-800g摂り、食塩摂取量を6g以下にすることが勧められています。しかし、あまり自分の嗜好を我慢すると、それがかえってストレスになるとも限りませんどうすれば楽しく・継続して出来るか工夫が必要です。そして、どんなに生活に注意してもがんは発生することがあります。胃・大腸がんは早期に見つかればほとんど治る病気となっています。長生きして質の高い老後を送るには、やはりがん検診をきちんと受けることも大切です。
下記資料を参考にしました。
① 国立がんセンター:がん情報サービス(ホームページ)
② 日本消化器病学会雑誌:103巻、第5号(2006年5月)
平成18年11月