- 高血圧２題
- 投稿者：かわち内科循環器科医院 院長 河内 祥温
先日、降圧剤を服用しておられる患者さんが、グレープフルーツジュースを飲んで気分が悪くなったと
言ってこられました。何かテレビの番組でこの２つを同時に摂ると危険だと言っていたのを思い出して不安がつのったということらしいのですが、確かに降圧剤の種類によっては好ましくないことが起こります。殆どのお薬は体内で代謝を受けて（つまり分解されて）体外へ排泄されるのですが、この時、皆さんが体内に持っているある酵素という物質が特定のお薬の代謝に深くかかわっています。この酵素の働きが阻害されると、お薬が体内に過剰に吸収、蓄積されて強く作用することがあるのです。ところで、グレープフルーツの果汁にはフラノクマリンという物質が含まれていますが、これは人の体内に存在するチトクロームP４５０（ＣＹＰ３Ａ４）という酵素の働きを阻害します。このＣＹＰ３Ａ４はいくつかの種類のお薬の代謝にかかわっていますが、降圧剤のなかでも特によく使用される「カルシウム拮抗剤」の殆どが程度の差こそあれこの酵素で分解されるのです。したがって、この種の降圧剤を服用して、グレープフルーツも摂取するとお薬の利き方（生体利用率）が数倍にもなることがあり、ときにはショックさえおこすこともあるようです。この反応には個人差があり、また同じカルシウム拮抗剤でも危険なものから、まず安全と考えられるものまでいろいろありますので、降圧剤を服用されておられる方は主治医や薬剤師の先生に相談されたほうがいいでしょう。
その他、抗血小板薬、偏頭痛治療薬、抗高脂血症剤、向精神薬などの一部もグレープフルーツと相互作用を呈すといわれています。
また同じ柑橘類の夏みかん、橙、ザボンも要注意ですが、他方、温州みかん、レモン、オレンジは安全とされています（ 夏みかんにはフラノクマリンが含まれていないという説もありますが？ ）。薬の服用とグレープフルーツジュースを飲むのとどれくらいの時間をあけたら安全なのかは、非常に個人差があります。特にグレープフルーツが好きというのでなければ血圧などのお薬を服用されている方は安全策をおとりください。
ところで、同じ患者さんが「いろいろ薬をのんでいると､あれやこれやと制約が多くてめんどうですね。１回の注射で高血圧が治らないものでしょうか？」と、どきっとするような鋭い質問をされました。実はもしかしたら本当に注射で高血圧が治る時代が来るかもしれません。体内の昇圧物質のひとつにアンギオテンシンⅡという物質がありますが、内服薬の一部にはこの物質の代謝系を阻害して降圧をはかるものがあります。近年、このアンギオテンシンⅡ自体をターゲットとしたワクチンが開発されました。体の中に抗体を作ってアンギオテンシンⅡを無力化するわけです。すでに人での小規模臨床試験も行われ、かなり有望な成績を収めたようです。実際の臨床応用はまだまだ先のことでしょうが、一部の高血圧症ではおおいに期待できそうです。
平成20年6月
