- 高齢者虐待を考える
- 投稿者:協和病院 院長 亀井 英也
高齢社会を迎え、寝たきりや認知症といった介護を要す高齢者が増加している中で、高齢者虐待あるいは老人虐待ということばをよく見聞きするようになりました。最近激増している児童虐待や配偶者間暴力などが制度面で対応されているのに比べ、わが国における高齢者虐待研究の歴史は浅く、1990年以降、実態調査や相談事業が行われるようになり、その結果、新しい福祉課題として認識されるようになりました。現在のところ法的な定義はありませんが、2003年11月に厚生労働省が家庭内における高齢者虐待に関し調査をした時の5つの分類が、現在の高齢者虐待の大まかな指標となっています。
1.身体的虐待:暴力的な行為などで高齢者の身体に傷やあざ、痛みを与える行為や、外 部との接触を意図的、継続的に遮断する行為。
2.心理的虐待:言葉の暴力や威圧的な態度、無視、嫌がらせなどによって、高齢者に精神的、情緒的に苦痛を与えること。
3.介護や世話の放棄・放任(ネグレクト):介護や生活の世話を行っている家族がその提供を放棄または放任し、高齢者の生活環境や身体的、精神的状態を悪化させること。
4.性的虐待:本人との間で合意がない、あらゆる形態の性的な行為とその強要。
5.経済的虐待:本人の合意なしに財産を処分したり、本人の希望する金銭の使用を理由なく制限したりすること。
高齢者虐待が起こる場所によって、家庭内虐待と施設内虐待とに分けられますが、家庭内虐待の背景には、介護する側にも受ける側にもいくつかの要因が考えられるとされています。高齢者側の要因として、寝たきりや認知症のために、徘徊や妄想、不潔行為など問題行動が多く、重度の介護が必要な人、また、頑固で自己主張の強い性格が虐待の要因になることが多くなっているようです。介護者側の要因としては、介護を手伝ってくれる人や相談相手がない孤立した介護や、介護や認知症についての認識不足、経済的な問題など、要因は多岐にわたって考えられています。
介護保険制度の導入後、様々なサービスが行われるようになり、専門職が要介護高齢者の家庭に入る機会が増えてきましたが、これらのことは深刻な虐待の実態が表面化していくきっかけにもつながっていきました。全国調査の結果では、虐待されている被害者は女性に多く「要介護3以上」と、重度の介護が必要な人に多く、その八割以上が認知症でした。虐待者は息子、配偶者、息子嫁の順で、同居者や主な介護者によるものが多いという結果でした。虐待の種類では心理的虐待が最も多く、ネグレクト、身体的虐待の順で、初めての全国レベルでの調査でも深刻な高齢者虐待の実態が浮き彫りになっています。高齢者介護の現場には、虐待が生じていても、高齢者も、関与している家族も、介護職員も、それを虐待だと認知していないことが多く、高齢者虐待を防ぐには、高齢者虐待とはどのような状況をさすのかを十分に理解することが求められます。
要介護者の多いわが国で、在宅あるいは施設でご家族や専門職員が高齢者にやさしく声掛けをし、一生懸命介護・看護している人々が多い中で、一部の人によって虐待が生じていることは非常に残念なことです。高齢者が要介護状態になっても安心して過ごしていくために、虐待の防止策や早期発見、早期介入ができるよう、法律の制度化がいそがれます。
最後に、介護病棟をもつ者として、患者様方へ心通うようなケアを目指すには、われわれスタッフのメンタルヘルスが何よりも大切であることを痛感する思いです。
まずは、身近におられる高齢者に、温かな声を掛けることから取り組んでみませんか。
平成17年8月