一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • ピロリ菌の診断と治療
  • 投稿者:いけだクリニック 院長 池田 秀郎

ここ数年よくヘリコバクターピロリ菌(以下ピロリ菌と略)の事が新聞やテレビで報じられているので、ご存じの方も多いと思います。昨年11月よりいろんな条件付きですが、やっとピロリ菌の有無の検査・治療が保険適応となりましたので少し詳しくお話したいと思います。

ピロリ菌はグラム陰性の短桿菌で、胃・十二指腸粘膜に寄生し、胃粘膜固有層に強い持続性の炎症を起こし粘膜上皮を脆弱化します。すなわち慢性胃炎を発生させるわけです。感染経路は経口で、感染は幼少期に集中しており、日本人の約半数、40才以上では7割以上もの人が感染していると言われています。
しかし、感染によって全例に組織学的胃炎は生じるが、胃・十二指腸潰瘍にまで進展するのは感染者の2?3%程度、また胃癌になるのは0.4%程度で、感染者の90%以上は潰瘍や癌に進展することなく一生を終ると思われます。

ピロリ菌は他の腸内細菌に比べ数十倍のウレアーゼ活性を持ち、胃内の尿素を分解しアンモニアを生成し強酸性の胃酸を中和する事で胃内にて生き延びることができるのです。このピロリ菌が胃の中で生きるために必要なアンモニアが強い細胞障害性を持っており、またその他に空胞化毒素やエンドトキシン、好中球活性化因子、活性酸素などが複雑に粘膜障害にかかわっていると考えられています。ですから、ピロリ菌を除菌することによってかなりの確率で胃炎のみならず、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の再発を防ぐことが出来ます。

またピロリ菌は胃癌の原因の一つと言われており、胃癌術後にピロリ菌が陽性の場合は、除菌することで胃癌再発率は減少すると考えられています。胃MALTリンパ腫も除菌で改善する傾向が強いと言われています。 除菌の副作用は下痢と味覚異常程度の軽いものが主ですが、ごく希に出血性腸炎や偽膜性腸炎などの重篤な副作用をきたすこともあると報告されています。またペニシリンに対する過敏症も起りうる副作用ですし、耐性菌もクラリスロマイシンとメトロニダゾールには発生しやすいようです。
また最近では、除菌によって逆流性食道炎が起きやすくなり、そのことが食道腺癌発生に関与しているのではないかと言う説も発表されています。

このようにピロリ菌は善悪兼備えた菌であり、また除菌療法の副作用なども含め、除菌対象の選択は慎重にしなくてはいけません。

これらの事を踏まえ、平成12年11月1日より保険適応となったピロリ菌診断の対象患者さんは、内視鏡もしくは造影検査で胃潰瘍あるいは十二指腸潰瘍と確定診断された患者さんのうちピロリ菌感染が疑われる方であり、胃炎のみの患者さんでは感染の有無の診断は出来ません。
ピロリ菌感染の診断は、内視鏡検査を施行した場合は、迅速ウレアーゼ試験か組織学的検査法(鏡検・培養法)を、施行しない場合は抗体測定法か尿素呼気試験を行なうのが一般的です。
除菌前診断として、これらの診断法の内いずれか1検査法のみ行うことが許されており、陰性患者に対して再検査を行なう場合は、他の方法で1回のみ算定できる事になっています。

治療に関しては、胃潰瘍もしくは十二指腸潰瘍の確定診断が付いた患者さんで、ピロリ菌陽性患者のみ保険上の除菌療法の適応となります。 除菌治療は、ランソプラゾール(PPI)1回30mg、アモキシシリン1回750mg、クラリスロマイシン1回200または400mgの3剤を1日2回7日間経口投与すると決められており、他の薬の使用や期間を延長することは許されていません。効果判定のため、除菌治療後4週間以上経過した患者さんに再度感染検査を行なうことが出来、これで陰性になっていないときにはもう一度だけ除菌治療を行う事が許されています。

以上少し専門的な話になってしまいましたが、結論としては、胃痛・胃もたれなどの症状の続く方は、かかりつけの医師とよく相談して、まず内視鏡検査や胃透視検査を受け、潰瘍が出来ていれば引き続きピロリ菌の検索を行い、その有無で治療法を決定してもらってくださいと言う事です。

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