一般社団法人 小郡三井医師会

病気と健康の話

  • 妊婦の飛行機利用について
  • 投稿者:さとう産婦人科 院長 佐藤 典生

はじめに:近年、航空機の利用による旅行は特別なことではなくなり、国内外をとわず誰でも気軽に出かけられる時代になりました。そのためか、外来診療時や電話などで妊婦の航空利用についての問い合わせがしばしばあります。そこで本稿では、妊婦の飛行機利用について述べてみたいと思います。

 

1 特殊な機内環境

搭乗中には機内環境の特殊性のため、さまざまなストレスがかかります。飛行機はその性能や搭載重量や気象状況や目的地までの距離などに応じて約7,000から13,000メ-トルの高度を航行します。
機内は与圧装置によって外気圧よりも高い圧力がかけられています。しかし、機体構造の限界もあるため、約1,500から2,400メ-トルの高度にいるのと同程度までの与圧にとどまっており、機内の気圧は地上より低くなっています。気圧の低下に伴い気体は膨張するので、腸管内のガスは膨張し体に悪影響を及ぼすこともあります。機内の温度は空調システムより調節されていますが、空気の加湿は行っておらず一般的に湿度は10から20%と著しく低いのです。機内の空気の50%は再循環しており、フィルタ-により空気中の細菌の多くは除去されるので空気の質は良好です。しかし細菌より小さいインフルエンザや風疹などのウイルスの十分な除去は難しいと考えられています。また、飛行機は地上の乗り物とは異なり体に、離着陸時の加速度負荷、飛行中の気流による振動を受けます。
このように、飛行機は外界に対して気密性を保つ特殊な環境の狭い閉鎖空間であるのです。

 

2 飛行機利用の可能な妊娠時期

機内環境は一般的には正常妊娠妊婦に対しては危険はないと考えられています。しかし、前述したような機内環境の特殊性を鑑み、妊婦ならびに胎児への影響を考慮すると飛行機利用の最も適している妊娠時期は安定期である妊娠12週から28週頃までとされています。
例を日本航空にとりますと、妊婦の搭乗制限に関する取り扱いは以下の通りになっています。
航空機の搭乗に際しては、出産予定日から28日以内の妊婦は、利用開始日より7日以内に作成された医師の診断書を要することになっています。この場合、産科医が搭乗の適性を証明する場合は医師の付き添いは条件とされていません。但し、国際線においては出産予定日から14日以内国内線においては出産予定日から7日以内の搭乗の場合は産科医の同伴が条件となります。
診断書等の用紙類は各支店、営業所に準備してあります。また診断書の記入はかかりつけの産科医にしてもらうのが望ましいと思います。

 

3 妊婦の飛行機利用を許可できない場合

搭乗可能な妊娠時期においても、性器出血、下腹部痛がある場合、つわりが著しい場合、切迫流産、切迫早産、子宮外妊娠、習慣性流産、前置胎盤、頚管無力症、妊娠中毒症などの診断を受けている場合、ヘモグロビン値が8.5g/dl以下の貧血の場合、繰り返す血栓性静脈炎の既往がある場合は飛行機利用を見合わせるようにしてください。

4 妊婦の飛行機利用時の注意点

機内では、気圧の低下に伴い腸管内のガスが膨張するので炭酸ガス飲料を飲むのは避けることが望ましいでしょう。妊娠悪阻がある妊婦は、飛行機酔いによる嘔吐が助長されやすいので注意が必要です。
シートベルトは腰の低い位置に必ず着用しますが、ベルトの長さが不足する場合は延長用のベルトが機内に搭載されてます。エコノミ-クラス症候群(狭い機内に長時間座ったままのために発症する深部下肢静脈血栓症)発症を避けるためにも、機内ではできるだけ1~2時間毎に通路を歩行し、水分を十分に摂取することをすすめます。

おわりに
客室乗務員は、機内での救急患者の対応について定期的な訓練をうけていますが、医療従事者ではないので十分な対応を期待するには無理があります。したがって、妊婦に切迫早産など救急事態が発生した場合には、機内アナウンスにより搭乗している医師、助産師、看護師などの援助を依頼することになります。しかし、医療関係者の援助を得られたとしても、機内での十分な処置が不可能な場合は、最寄の空港へ目的地を変更して着陸せざるを得ません。この場合、他の乗客に多大な迷惑をかけることになり、航空会社にとっても非常に大きな負担となります。このようなことにはならないように、妊婦が飛行機利用をする場合はかかりけの産科医、もしくは航空会社の相談窓口に問い合わせしすることを勧めます。

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